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矢田くんと友岡航が手を繋いで歩いている姿は、その日から度々見かけるようになった。かと思えば、矢田くんが不機嫌そうに友岡航を引きずって歩いている姿を見ることもあるけど。

結構互いに好き同士、って感じで妬ける。



最初はどう見ても友岡航の方が矢田くんを一方的に好きだっていう雰囲気が強かった。
そんな友岡航を矢田くんは呆れながらも構ってあげてる感じ。

そんな矢田くんの姿を見るだけでも嫌なのに、友岡航が矢田くんへ一方的に向いていた矢印が、今となっては互いに向き合っている。


こんなことは想定外だ。

僕は早く別れてくれることを望んでいたのに。いや、すぐに別れると思ってたのに。


今ではすっかり見慣れてしまった二人が一緒にいる風景。


そんな二人の、またもや変化が訪れていた光景を、僕は偶然見てしまった。


放課後、校舎の出入り口。
寮へ帰宅する二人を発見する。


友岡航はメールでも打っているのか、片手でスマホをいじっている。

チラ、とそんな友岡航を見る矢田くんは、友岡航の空いている片手に、自ら指を絡ませた。

最初は互いの人差し指を引っ掛けた感じ。

そんな矢田くんの手も気にした様子を見せず、真剣にスマホ画面を見つめている友岡航の手を、矢田くんは徐々に深く絡ませた。恋人繋ぎだ。

僕は、見てしまったのだ。

矢田くん自ら、友岡航に恋人繋ぎを求めた瞬間を。

その後手を繋いだ二人だが、相変わらず友岡航は、ずっと真剣な表情でスマホ画面を見つめ、スマホをいじっている。

ムッとした表情になった矢田くんは、鞄を肩に引っ掛けた方の手で、パシンと友岡航の頭を叩き、スッと友岡航が持つスマホを奪い取り、矢田くんのズボンのポケットに突っ込んだ。


矢田くんにスマホを奪われた友岡航は「あっ!」という声を出すも、その後は二人仲良く喋りながら帰っていた。


互いに向き合っていた矢印が、いつの間にか矢田くんの方が多く友岡航の方へ向いている感じがして、僕ら矢田くんのことが好きな人間は落胆せざるを得なかった。


なにが『どうせすぐ別れるだろ、』だ!

あの二人、全然別れないどころかべったべたのラブラブじゃないか!!!


僕はぶつけようのない不満をどうすることもできず、ストレス発散させるためにもぐもぐ物を食べまくり、ちょっとだけ太ったのだった。



「るいー、帰ったら数学教えてー」

「いいよ。俺の部屋?」

「うん。るいの部屋行く。」

「数学だけでいいのか?」

「んー…数学だけでいい。」

「ふうん。」

「数学さっさと終わらせて、るいきゅんとのらびゅらびゅタイムが待っている!」

「バーカ。そう上手く終わらせられると思うなよ。」

「えっ。るいきゅん俺といちゃいちゃらびゅらびゅしたくねーの?」

「ずっと思ってたんだけどさあ、らびゅらびゅってなんだよ、らびゅらびゅって。」

「えー、るいきゅんらびゅらびゅの意味知らねーのー???」


ニヤニヤと笑いながら矢田くんのほっぺたをツンツンしだした友岡航を、矢田くんは横目で何も言わずにジッと見ている。

以前の矢田くんなら確実に友岡航に苛ついたような表情を向けていたのに、何も言わない。

そしてその後、


「つまりらびゅらびゅとは!こういうことだぁ〜!」と友岡航は人目ある場所にも関わらず、矢田くんの顔を両手で挟み、矢田くんの唇に吸い付いた。


いやあああああ!!!!!

矢田くんの唇があああ!!!!!

己、友岡航シネえええ!!!!!


僕はあらぬ光景を見てしまい、身体はカチリと固まらせながら、内心で凄まじく荒ぶった。


散々荒ぶった後に、僕は更にあらぬ光景を見てしまう。


ちゅう、と矢田くんの唇に吸い付いている友岡航の頭をガシリと鷲掴んだ矢田くんは、グッと顔面を引き寄せて、更に友岡航からのキスに乗っかるように熱い口づけをした後、ペロリと友岡航の唇を舐めてから頭から手を離して顔を離し、


「じゃあ今のでらびゅらびゅの先取りってことで、帰ったらみっちり数学な。」


そう言って矢田くんは、ニッとヤンチャな笑みを浮かべたのだった。


まるでその表情は、そう…

友岡航のような……



「…も、もう、やめて……。」


僕のライフはゼロである。

へなへなと力は抜けていき、もう見ていられない二人の様子に、僕はそっと視線を逸らし、二人を見ないようにして、そっとその場を後にした。


file1:るいファンの観察日記 おわり



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