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【 file1:るいファンの観察日記 】
僕、二村 隆(ふたむら たかし)は、この学校に入学したその日から、今までずっと恋心を抱いている人がいる。
その人の名前は矢田 るい。
入学当初から彼はカッコよすぎる上に主席合格で入学したことでかなり話題になり、彼に一目惚れしたものは多い。
そんな中、もれなく僕も矢田くんに恋をしてしまった一人だが、彼にはかっこいいのに浮ついた噂など一切なく、人には無関心で態度もそっけないが、そんな姿がまたとてもかっこよく、魅力的だった。
そんな今まで浮ついた噂が無かった矢田くんに特別な人が出来てしまったとき、僕を含む矢田くんを好きな人たちは皆、一同にショックを受けた。忘れもしない、2年Eクラスの教室で矢田くんが友岡 航にキスをした瞬間。
僕は、まさか二人がそんな仲になっているとは思いもしなかったから、とてもとても驚いた。
二人が一緒にいる姿を見たときはそれはもう、とてもたまらない気持ちになった。嫌だ、嫌だ。矢田くんが誰かを好きになるなんて。
本当にまさか、だったのだ。
まさか矢田くんが、友岡 航を好きになるとは思わなかった。だって、最初の矢田くんの友岡 航への態度は、どう見たって好ましい態度では無かったから。
だから、どうせすぐに別れるだろ、って僕らは皆、そんな噂をしていたのだ。
矢田くんが、友岡 航に愛想尽かすのなんて時間の問題だろ、って。
そう思いながら、僕を含むたくさんの矢田くんのことを想っている人たちは、いつも彼らの様子をコソコソと窺っていた。
朝、食堂でご飯を食べているところ、二人が登校する様子、休み時間での接触、放課後生徒会へ行く矢田くんと一緒に帰るために待っている友岡 航の姿とか、夜に一緒に夕飯を食べている姿、それからそのままどちらかの部屋に行くところまで。
矢田くんと友岡 航は僕らが思っていた以上に、共に行動することが多かった。
しかし最初は友岡 航から矢田くんにくっつきまくっている印象が強かった。
まるで僕らに見せつけているように、友岡 航は矢田くんにベタベタくっついている。ムカつく。とてもムカつくのに、ただ見てるだけしかできない僕ら。
早く矢田くん、友岡 航のことフってくれないかな、と常々願う日常が続く。
「あ、やっべ。英語小テストあるのに勉強するの忘れた」
「バカ。今勉強しろ。」
「えー。」
「はやく。」
「うぃーす…。」
矢田くんに言われて渋々英語のノートを鞄から取り出した友岡 航は、学校に向かいながらノートを開く。
友岡 航が矢田くんに怒られている姿を見ることはとても多く、このように勉強させられている姿を見ることも多い。
矢田くんのおかげで不真面目でバカで有名だった友岡 航が今では真面目にやっているとか。
ノートを眺めながら歩く友岡 航の手首を掴み、引っ張りながら歩く矢田くん。まるで友岡 航を学校に“連れて行っている”感じ。
それが、初期の頃の二人だ。
仕方ないな、とでも言いたげな矢田くんの表情。僕らはそんな矢田くんを見て、いつも思う。矢田くん、そんな奴放っておけばいいじゃない、と。
なんで矢田くんは友岡航のことを好きなのか、僕らは考えても考えても分からなかった。
そりゃあ分かるはずもないけれど。
だって僕は、矢田くんではないから。
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