おまけ1 [ 71/163 ]

「本命チョコは俺からしか受け取っちゃダメだからなぁあああ!!!!!」


そう叫びながら、矢田くんの真横を通過した航に、矢田くんは「えっ!?」と驚きの声を上げ、目を見開く。


「ちょっ、航!どこ行くんだよ!!」


走り去る航に向かって呼びかける矢田くんだが、航の姿は早くも数十メートル先で、今にもその後を追いたそうにしている矢田くんの前には他校の女の子。


その子も、航の存在に唖然としており、矢田くんにチョコレートの箱を差し出したまま固まっている。


どうせ今の矢田くんは航のことで頭いっぱいだろうけど、ひとまず目の前の女の子の相手をしてあげるのが先で、俺は矢田くんの心配を取り除いてあげるために矢田くんの側に歩み寄り、ポンポンと肩を叩いた。


「航コンビニ行ってくるってさ。まあ、暫くしたら戻ってくるから。」


ふっ、と爽やかな笑みを浮かべて、矢田くんに話しかける俺イケてない?どうよ?なあそこの女子。

とチラリと矢田くんの目の前の女の子に視線を向けたが、彼女はちっとも俺のことを見てはいなかった。

クッソ、ポーっとした顔で矢田くんを見てんじゃねえよ!


「おーい日下部邪魔すんなよー」

「戻ってこーい」


矢田くんばっかりモテていてだんだん苛立ちを募らせていた時、背後からなっちくんとモリゾーの俺に呼びかける声が聞こえる。


「うるせえぞ!邪魔してねえよ!俺は親切で矢田くんに教えてやってたんだよ!航がチョコ買いに行ったってな!!!」


なのに俺が矢田くんに告白中の女の子の邪魔をしているような目で見てきたなっちくんとモリゾー。失礼な!と思いながら奴らに怒鳴りつけた時、矢田くんは嬉しそうに頬を緩ませ、クスリと笑った。


「バカーそれ言っちゃダメだろー」

「いいから早く戻ってこーい」

「うるせえな!わかったよ!!!」


背後からうるさい奴らに苛立ちながら、俺が矢田くんの隣から立ち去ろうとした時、矢田くんはにこにこと嬉しそうに笑いながら、「クソカベサンキュー。」と声をかけてきた。


笑顔の矢田くんを、さらに女の子はポーっとした表情で見つめていて、しかも付き添いの女の子までうっとりと矢田くんのことを見つめている。


悔しいが、確かに矢田くんはかっこいい。


「いいって。さっさとその子に返事してやれよ。」


ふっと爽やかに笑って、かっこつけながら、俺は女の子に背を向けた。


まあ多分、彼女たちの目はどうせ俺に向けられることはないだろうな。泣きたい。



「ごめん、大事な人がいるから受け取れません。でも、ありがとう。」


その後、そう言って矢田くんは女の子に頭を下げていたが、女の子は寂しそうにしながらも、満足そうに帰って行った。


「かっこよかったね」

「話せてよかったね」

「うん!かっこよすぎてまだ心臓がばくばく言ってる。…もしかして大事な人って、さっきの男の子かな…?」



その通り。世の女子ども、イケメン野郎矢田には溺愛するほどの彼氏がいるので、さっさとイケメンは諦めて、ちょっとだけイケメン男、この日下部を好きになればいいぞ!

そうすれば、

あなたにも訪れる

ハッピーバレンタイン。


おまけ1 おわり

next→おまけ2
R-18です。閲覧にはご注意ください。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -