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「んぎょえええええ!!!!!」


それは休み時間のことだ。

1年Cクラスの教室には奇妙な叫び声が響き渡った。


「おいなんだよ晴その気持ちわりー声。」


彼の友人、中津 隼人が問いかけると、奇妙な叫び声の持ち主倉持 晴は、目を見開いて隼人に一旦視線を向け、ゴシゴシと目を擦ってから、晴の手元にある一冊の雑誌に視線を向けた。


「…お前そんなもん持ってきてマジな猫キチだな。」


隼人は晴の手元にある猫雑誌を見てはそんなことを晴に言っているが、晴にとって今はそんなことどうでも良かった。


「ちょっ!これ誰に見える!?!?」

「は?誰って?……あぁ、おまえ?」

「だよなあ!!!!!」


晴は雑誌に載っている写真を隼人に見えるように掲げて、問いかけた。

そこに写るのは、少年のお腹の上に乗っかってすやすやと眠る1匹の猫。

少年も猫も、とても幸せそうに眠っている。穏やかな時間。そんな一時が、見ているこちらにも伝わってくる一枚だ。


タイトルは、【 幸せな一時 】


「おい、撮影者 桐谷 寛人って書いてあんぞ。」

「うおおおお桐谷寛人おおおおおおお!!!!!」


晴は腹から声を出すように、大声でその名を叫んだ。


「ん?なんか呼ばれた気がしたな?」


そこへ偶然ひょっこりと姿を現したのは、正にこの写真を送った本人、桐谷 寛人だ。

まさか自分が送った写真が雑誌に掲載されたとは一ミリたりとも思っていない寛人は、顔を真っ赤にして興奮している様子を見せる晴に首を傾げている。


「ん?晴どうした?」

「お前なんだよこれぇぇえ!!!」


そこで晴は、寛人に雑誌を押し付けた。

雑誌を手にした寛人は何気ない様子で開いたページに視線を落とす。


「お?この写真なんか見たことあるな?…あ、俺が送ったんだわ。忘れてたな。」

「てめえなに寝ぼけたこと言ってやがる!!!どういうことか説明しろ!!!」


顔を赤くして興奮状態の晴は、寛人の肩を掴んでガクガクと揺らし始めた。


「ん?…あー、いや、俺もこれに写真送ったら猫クッション獲得の確率上がるなーと思ってお気に入りの写真送ったんだよ。んで晴に内緒で送ってもし雑誌に載ったら晴びっくりするだろうなーと思って。」

「びっくりしたわこの野郎!!!」

「にしてもマジで載ったとはなー。やったな、猫クッションゲットだ。」

「寛人おおお!おまえってやつは!!!好きだあああ!!!」

「お?チューするか?」

「…………あとでね。」



教室であることも忘れて、なんだか甘い空気を撒き散らかし始めた晴と寛人。

そんな二人を呆れた目で見ている隼人は、なんとなく『カシャ』とそんな二人を携帯で撮影してみた。


「タイトル、幸せな一時。………ハッ、削除削除。」


1人自分が撮影した写真を見ては鼻で笑い、すぐにそんな写真は削除しておいた。


数日後、送られてきた猫クッションを嬉しそうに手にする晴に、寛人は幸せな気持ちでいっぱいになったのだった。


キミの笑顔が見たくて おわり


2015.08.21〜10.21
拍手ありがとうございました!


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