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早朝、まだ薄暗い部屋のベッドの上で、寝返りを打ったことにより俺は、“何かがおかしい”ことに気付いた。
「ぐえっ…、もお…。」
「ん…?」
えっ…?誰だ…?
待て待て……、俺夜何かやらかしたか?酒は飲んで…、なかったはず…普通に勉強して、普通に寝たはずなのに、……何故俺の隣に人が寝てる?
俺はそのことに気付き、隣で寝ている人物が誰なのか確認しようと恐る恐る顔を覗き込んだ。
男だな。…良かった。…いや良くはないが。
枕に顔を伏せてよく眠っているため誰だかまだ分からないが男だ。りとが寝惚けて部屋間違えたか?しかし髪は航のように真っ黒だから違う…、……いや待て、知ってる…知ってるぞ…?この後頭部、俺は知ってる…
「航だ……。」
頭を掴んでクイッと顔をこちらに向けさせたら、それは航の寝顔だった。
そして顔をこちらに向けさせた衝撃で航を起こしてしまい、航がうっすらと目を開いた。
「んん…もう起きてんの?…何時?早くね?」
航はそう言いながら俺の身体をまるで抱き枕扱いするみたいに抱きついてきた。
「ちょっ…航?それはまずいだろ…。」
「んぇ?なにが?」
「矢田に怒られるぞ。てか昨夜なんかあったっけ…、俺寝惚けて知らねえうちに招き入れたか…?」
「…はぁ?寝惚けてんのかよ…今何時?…まだ5時じゃん…もぉ。」
航は枕元に置いていたスマホで時刻を確認し、そう不機嫌そうな声を出しながら、再び眠りに入ってしまった。俺の胸元に押し付けられた顔面に、俺は急激に心臓がドキドキしてきてしまい苦しくなってくる。
これは、自分の願望が夢になって出てきてしまったのか…?そっと航の頭に手を置いたら、ふわっと航の柔らかい髪の感触がして、忘れていた航への恋心を思い出しそうになり、ちょっと切ない気持ちになってしまった。
あれから随分大人になったよな、お前。生意気で、やんちゃだった高校生の頃の航を思い出したら懐かしく思えるくらい、顔付きも大人っぽくなったよな。
矢田に申し訳ないとは思いつつ、この訳の分からない状況を言い訳にして少しだけ……、航の身体を抱き締め返し目を瞑ったら、俺は再び眠りについていたのだった。
「るい?おーい、るい?大丈夫か?なかなか起きねえけど。」
次に俺が目を覚ました時、ベッドから起き上がっていた航がトントンと身体を叩きながら起こしてくる。……ん?『るい』…?お前今、『るい』って呼んだか…?
そんな訳の分からない状況に、頭を混乱させながら目を覚ますと、航が「おーやっと起きたな。今日学校一限からだろ。珍しいなるいが寝坊なんて。」と話しながらベッドから降りて部屋を出て行った。
『今日学校一限』…?『珍しいなるいが寝坊なんて』…?そんな航の発言により、俺は確実に何かがおかしいことに気付いた。そう言えばここはどこなんだ…?航と、…矢田の、家?
混乱する頭で俺もベッドから起き上がり、部屋を出る。やっぱりそうだ。ここは航と矢田の家だ。
水が流れる音と、シャカシャカと歯を磨くような音が聞こえてくる方向に向かえば、洗面所で航が歯を磨いていた。
航に歩み寄ると、鏡に映ったものが視界に入る。そこに映るのは当たり前に航と、…矢田の姿で…、
「いや待て、おかしいだろ。」
「んぁ?なにが?」
思わずペタペタと自分の顔面を手で触れた。すると鏡に映る矢田が怖い顔をして自分の顔をペタペタと触っている。
「……待てって、おかしいおかしい。」
「だからなにがだよ。」
「まじでおかしいぞこれは……。」
「はぁ?寝惚けてんの?体調悪いなら学校無理すんなよ。」
航はそう言いながら歯と顔を洗い終えて洗面所を出て行った。…お前、昔の航と別人に思えるくらいしっかりしたなぁ…。俺は後輩の成長に感動した。
しかし感動している場合ではない、とりあえず少し落ち着こう。なんだかよく分からないが、これは多分おかしな夢を見てるんだ。朝起きたら俺が矢田になってる夢。
よく分からないが一限から学校があるなら、矢田の代わりにちゃんと学校に行ってやらなければならない。混乱する頭で身支度をしてリビングに顔を出してみたら、航が朝食の準備をしていた。
「お前今日まじで体調悪そうだけどご飯どうする?食べれる?」
「航が用意してくれんのか?」
「え、うん。パン焼くだけだけど。」
「じゃあ食べる。」
「……るい今日まじで大丈夫か?熱あるんじゃねえの?体温測っとく?」
やはり人間、中身が違うと言動も違いすぎているようで、航が怪しむような顔をして俺を見始めてしまった。言うべきだろうか。矢田の中身が黒瀬拓也だということ。…しかし航を不安な気持ちにさせるわけにはいかない。
ここは矢田を装っておくべきだと考え、「大丈夫大丈夫、変な時間に目覚めてまだちょっと眠いだけ」と言っておいた。
「…それなら良いけど。チューしてこねえから風邪でも引いて遠慮してんのかと思った。」
そっ、…そういうことだったか…。きっと矢田のことだから、朝から航にベタベタしているんだろう。さすがにそこまで矢田を装うのは無理だ。矢田への申し訳なさのほうが勝ってしまう。
「ちょっと頭痛いんだよな…」
「まじ?無理すんなよ。」
「おう…、そうするわ。」
なんとかそんなことを言って、無事航にベタベタすることから回避した。
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