3. るいクッキングクラブ [ 127/163 ]

【 るいクッキングクラブ 】


大学が終わって家に帰り、課題をしていた午後6時過ぎ、珍しくりとから電話がかかってきた。


「もしもし?どうした?」

『あ、兄貴?あのさぁ、大根が全然柔らかくなんねえんだけど。』

「は?」


…いやいや、いきなりなにこいつ。
これは真面目に質問してるのか?


「何作ってんの?」

『おでんみたいな大根。』


おでんみたいな大根…?はつまりおでんの大根ってことか?うん。そうだろうな??


『もう30分くらいずっと煮込んでんのに固いんだけどどゆこと?』

「…ん〜…、もしかしてコンビニで売ってるやつみたいな大根目指してんのか?」

『そうそうそうそれそれ!』

「それじゃあ30分じゃ無理かもな。」

『まじかよ!!じゃあもうやだ…やめたい。』

「はぁ?しばらく弱火で放置しとけよ。あ、火事なんねえようにな。」

『んえぇ〜…。』


不機嫌そうな唸り声を最後に、りとにブチッと通話を切られてしまった。なんなんだあいつは。めずらしく料理してると思いきや。


その日結局りとがおでんの大根をちゃんと作れたのかは不明だった。


そしてそれから約5日くらい経った日、またりとから電話がかかってきた。


「もしもし?どした?」

『あ、兄貴?カレールー1箱分一気に使ってカレー作ろうと思うけど何日くらい待つ?』

「カレーは傷みやすいぞ?半箱にしとけよ。2、3日で食い切れるなら作ればいいけど。」

『うぃ〜。』


…なんだよそのやる気ない返事は。ありがとうとかなんとか言ってから通話を切りやがれ。…と思うがせっかく弟が自炊をしているのに文句を言って気を悪くさせたら自炊自体を辞めてしまうかもしれない、とここは兄としてグッと抑える。


そして結局俺の言った通り半箱にしたのかは不明だが、それからまた一週間くらい経ち、やはりりとから電話がかかってきた。ひょっとしてあいつは、自炊にハマったのだろうか。


「もしもし?今度はどうした?」

『あ、兄貴?肉の賞味期限2日切れてるんだけど食える?』

「はぁ?肉の賞味期限?つーか会長居ねえのかよ?会長に見てもらえよ。」

『いねえから兄貴に聞いてんだろ。』

「臭いとか大丈夫だったらいけんじゃねえの?ちゃんと火通せよ。」

『うぃ〜。さんきゅ〜。』


お、やっとお礼を言ったな。毎回言え、毎回。
しかしりとは一体どんな料理を作ってるんだ?

…と、気になった俺は、りとが料理している様子を一度見に行ってみることにした。





「そういやこの前大根煮てただろ?ちゃんと柔らかくなったか?」

「あぁ、なんか気付いたらなってたけどあんま美味しくなかった。もう二度とやんねえ。」

「それお前の味付けが悪いんだろ。ちゃんとレシピとか見てんのかよ?」

「見たけど普通にコンビニの買って食った方が美味い。」


…怪しいなぁ。りとのそんな話を聞き、どうせ大さじとか小さじとか無視して適当にパッパと調味料入れてんだろ?…と、俺はりとの料理の仕方に疑いの目を向け始めた。


「で?今日は何を作るんだ?」

「今日は生姜焼き。」


機嫌良さそうに台所に立ち、肉のパックを取り出したりとは、フライパンに火をかけ、油をひき、さっそくフライパンの中に肉の塊をぶっ込んだ。

そしてその上から量を測ることなくドバッ、ドバッと料理酒やしょうゆを入れやがったりとにさすがに俺は黙ってられなくて口を挟んだ。


「ちょちょちょおおおい!!!!!」


菜箸ですぐに肉を掬い上げ、パックに戻す。


「は?なにすんだよ。」

「お前分量測れよ!つーかレシピは!?何見て作ってんの!?」

「さっきアプリで見てもう覚えた。」

「調味料の量測らなきゃ美味しく作れるわけねえだろ!?」


そう指摘すると、りとは見るからにめんどくさそうな顔をしている。大根が美味しくなかったのもやっぱそれが原因じゃねーか。


もう一度やり直しするように俺がフライパンの中に肉を戻し、りとが覚えたという調味料の量をしっかり測らせてから、肉にかけて焼く。


完成した生姜焼きを皿に移し、白ご飯と一緒にそれを食い始めたりとは、「おお、なかなかいけるな。」といいながらもぐもぐと生姜焼きを食っていた。だからちゃんと分量通り作ればそれなりに美味しく作れるんだって。


「ちなみに聞くけど、お前が作った大根めちゃくちゃ辛かったんじゃねえの?」

「うん。醤油入れ過ぎた。」

「分かってんならちゃんと測れよ!!!」


しっかり測りさえすればそこまで不味くなることはないだろうに、りとはやはりめんどくさそうな顔をして「めんどくせーんだよ。」と言うのだった。


「まあ不味くて良いなら好きにしろよ。でも勿体ねえなぁ〜。ちゃんと調味料測って大根作ったら、コンビニみたいに美味しいやつ作れたかもしんねえのに。」

「………また気が向いたらやるわ。」


果たして、今後りとはちゃんと調味料の量を測るのだろうか?

密かに気になってしまう俺だった。


るいクッキングクラブ おわり

2021.11.08〜12.28
拍手ありがとうございました!

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