1. 月一くらいで本気出す [ 125/163 ]

【 月一くらいで本気出す 】


日曜日、俺も航も二人とも学校もバイトも無い休日で、朝からイチャイチャらびゅらびゅ過ごしたかった俺だったのに、航は突然ガバッと身体を起こして、シャッ!と大胆にカーテンを開けた。

途端に差し込む日の光が眩しくて目を細めているうちに、航はスタスタと洗面所に行ってしまった。


…うう、今日はもしや…“あの日”なのか…。


航と一緒に暮らしてもう1年以上経ったが、だいたい月一くらいの頻度で航の中で猛烈にやる気が出る日が来る事に俺は気付いた。


俺はまだ航くんとベッドの中に居たかったし、なんなら朝活しても良かったのに、俺がまだベッドの上でうとうとしている間に航はせっせと洗濯を始めている。


洗濯機を回し始めたと思ったら、今度はリビングの方から聞こえてくる物音。『ヴォォォォォン』と聞こえてくるのは掃除機の音だ。


スマホで時刻を確認すると、丁度9時になった頃だった。早いって…。


のそっとベッドから起き上がり、リビングに行くと、航が前髪をちょんまげにして腰に手を当てながらやる気満々で掃除機をかけている。


そう、この月一くらいで訪れる“あの日”とは、航がめちゃくちゃやる気を出して掃除をする日だった。


「おはよ、航くん。チューは?」


掃除機をかけていた航の腰に腕を回して、背後から抱き付き顔を覗き込むと、「またあとで。」とシッシッと振り払われてしまった。


クソ…、最悪だ。こうなったら暫くお預けなことを俺は知っている。せっかく二人とも丸一日休みの日なのになんで今日なんだよ。俺がバイトの日にしろよバカ。


掃除機をかけ終わった後、今度は洗面所へ行ってしまった。クソッ、チューくらいしろよ。つーか朝飯は?食えよ。


パンを焼いて、コーヒーを入れていると今度は『ジャー』とトイレの水が流される音が聞こえてくる。…あぁ、今はトイレ掃除中か。


「わーたーるー、朝飯食わねえのー?」

「食うー。」


さっさとこっち来い。

航の返事が聞こえてきたので、航の分のパンも焼いてコーヒーも入れる。ちゃんと砂糖とミルクも入れたのでバッチリだ。


「用意できたー!航くん早く!!!」


急かすように名前を呼ぶと、ようやくこっちに来た航。ちょんまげが少し崩れていて可愛い。


「は〜、良い天気だなぁ。」

「デートする?」

「いや、布団干す。」

「チッ…」


航が椅子に座ったタイミングで、俺はチュッと今日初めてのチューをすることに成功した。

しかしその時、洗濯機の方から『ピーッ、ピーッ』と洗濯機が止まった音がする。


「あ、洗濯止まった。」

「うおおいっ!食ってからにしろよ!」


今の航はやる気マックス過ぎて、洗濯をはやる気持ちが出過ぎてしまっている。洗濯物を干すためにまた立ち上がろうとした航を慌てて引き止めると、「そうだな。」と言って俺が焼いたパンを食べ始めてくれた。


「掃除終わったら買い物行く?」

「うん、あと風呂とシンクの掃除するからそれ終わったら。」

「じゃあ風呂掃除は俺がするから。」

「ダメ、俺がやる。」


クソッ…なんて厄介な日だ。
この日は俺が手伝うことも許されない。
つーか風呂掃除なんか風呂出る時いつもちゃちゃっとやってるからそんな本腰入れてしなくてもいいのに。


航がパンを食べ終え、コーヒーを飲み終わったのを確認するとサッと俺が洗い物をすることに成功したから、その間に航は洗濯物を干しに行った。


どうせならこのままシンクもピカピカにしてやろう。と食器を洗った後掃除用のスポンジでシンクを擦っていると、洗濯物を干し終えた航が「あっ!!!」とこっちに駆け寄ってくる。


「なんでるいがやってんだよ!俺がやるっつってんのに!」

「さっさと終えて俺に構えっつーことだろうが!!今日せっかく二人とも休みなのに掃除なんかしなくて良いだろ!!!」


今日が“あの日”だと言うことは分かっていながら、でもやっぱり俺にとっては不満でちょっと怒ったように言えば、航は「ごめん、今日みなぎってるから。」と口にする。うん知ってる知ってる。


そして、「じゃあ風呂掃除して布団干したら終わりにするから!!」と航はダッシュで風呂場に向かっていった。

結局俺が何を言っても、この日は掃除を優先されてしまうのだ。


そして布団を干し終わった後、爽快そうな顔をして、「るい〜お待たせ〜。」と俺の方に歩み寄ってきてくれたから、ようやくゆっくり航に触れることができたのだった。


月一くらいで本気出す おわり


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