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「今日沙希たちと話してたんだけどさ、なんか大学の近くに心霊スポットがあるらしくて今度行ってみようかって言ってたんだけど、るいも一緒に、」

「…ぁあ?」


ヒッ…!


季節は夏。夏と言えばホラー。俺は怖いものは得意では無いがそういうのは嫌いじゃない見たがりの怖がりという厄介な性分なので、怖いもの好きの沙希と学校で話していたことを夜、晩飯を食べながらるいに話そうとした。

しかし予想外なくらい、るいから恐ろしい反応が返ってきてしまい、思わずホラー映画のおばけ並みにビビっちまった。


あまりのるいの顔の怖さに黙り込んで、ぱくりと今日の晩飯にるいが作ってくれたハンバーグを食べる。クソうまい。


「今なんつった?心霊スポット?」

「…う、うん。」

「お前んなとこ絶対行くなよ?」

「はい分かりました。」


るいの顔の怖さについ良いお返事をしてしまった。

クソっ、こんなにガチで止められるとは思わなかった。ちょっと楽しみだったのに!

ちぇっ、と声に出したい気持ちが顔に出てしまったようで、るいが俺の顔をジーと見つめながら真面目な顔をして話し始めた。


「もし面白半分でそんなとこ行って霊に取り憑かれでもしたらどうする、とかそう言う意味で言ってんじゃねえからな?勿論そういう可能性だってあるかもしんねえけど。そんなとこ遊びで行くもんじゃねえよ。なにより心霊スポットなんて呼ばれるようになるにはそれなりの理由があるからだろ?過去に何か事件があった場所だったら亡くなった方に失礼だし、治安だってクソ悪いところかもしれない、何かトラブルに巻き込まれることだってあるかもしんねえし、巻き込まれてからじゃもう遅いし、とにかく遊びで行ってあとから痛い目に会ったって自業自得なわけで、そんなところに俺は航に行ってほしくない、」

「わかった、…分かったってば!!!行かねえよ!!!ぐちぐちうるせえな、お前は俺のかあちゃんかよ!!!」


長いるいの話を聞いていたらだんだんイライラしてしまい、大声で言い返したらるいは怒ったようにムッと唇を尖らせた。


やっべ、ちょっと言い過ぎたか。しかし俺は一度『はい分かりました。』というとてつもなく良いお返事をしている。それなのにくどくどと話してくるるいの話は長すぎるのだ。

暫し俺たちの間には険悪な空気が流れる。

いつも基本仲が良い俺たちだがまあ些細なことで喧嘩をすることはよくある。今のようにるいの長ったらしい話をされると俺のイライラする態度が引き金となって喧嘩みたいになってしまうのだ。


「るいが一言ダメって言うだけで俺はちゃんと言うこと聞くのにお前がくどくど喋るから。」


後から言い訳のようにボソッとそう口にすると、るいもボソッと「ごめん。」と小声で謝ってきた。

いやしかし俺はるいに謝ってほしいわけではない。るいの言ってることは間違ってないことくらい分かる。ただくどくど話が長いのが難点なのだ。


「…いやでも今のは俺がごめん、ちょっと言いすぎた。仲直りのあーんしよう。」


一口大に切ったハンバーグを箸で挟み、るいの口元へ持っていくと、るいはふっと少し笑って「あー」と口を空けてくれた。


「うまいか?」

「うん、うまい。」

「そりゃお前が作ったからな。」


いつも自分で作ったご飯をあまり自画自賛しないるいに上手く自画自賛させることに成功した俺は、残りのハンバーグを上機嫌で平らげた。


「はぁ〜。」


満腹になった俺は、テレビ前でごろんと横になった。

タイミング良くタレントやお笑い芸人が恐怖体験を語っているような番組がやっている。やっぱ夏になるとこういう番組が増えるな。


「はぁ、俺も心霊スポット行ってみたかった。」


確かに悪い霊とか拾ってきたらやだけどそもそもこの世に霊というのは存在するのだろうか。霊感がまったくない俺には理解し難い話だ。


るいに言われたことはちゃんと納得してるけど、とにかく俺は、ただ夏らしい楽しいことがしたかっただけなのだ。


「俺は遊びで危ないとこには行くなっつってるだけだからな?」


俺のぼやきをるいに聞かれていたようで、皿洗いを終えたるいが寝転がっていた俺の隣に座って話しかけてきた。


チラッとるいの方を見ると、俺の身体に向かってるいの両手が伸びてくる。グイッと上半身を抱き寄せられ、るいに膝枕された。


「そういう雰囲気味わいたいだけなら別に近場で肝試しでもすりゃいいじゃん。」

「…え、なにそれ違いがよく分からん。」


心霊スポットはダメで、近場で肝試しは良いのか?ん?心霊スポットへ行くことがそもそも肝試しなのでは?あれ?肝試しってそもそもなんだ?


るいの発言に頭がこんがらがってしまった俺は、ボーッとるいのイケメンな顔を下から眺めた。


「ふふっ、かわいいお顔。」


同じくるいにも俺の顔を眺められ、にっこり笑ったるいの顔が近付いてきてキスされる。


「俺と一緒に肝試しする?」

「え、うん。よくわかんねえけどやりたい。」


キスをされた直後の口でそう言われ、とりあえず頷いてはみたが、るいが言う肝試しとは?


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