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『続いてエントリーナンバー10番!矢田るいくん!』


「キャー!るいくーん!がんばって!」

「るいくん笑ってー!!!」

「手ぇふってー!!!」


案の定、仏頂面で登場したるいに女の子たちからそんな言葉が投げかけられた。愛想を振りまかないことが、ある意味るいの良いところかもしれないが、そんなんじゃ拓也ちゃんには勝てないぞ、るい。

ということで、俺は周りの女の子たちのマネをしてるいに黄色い声援を送る。


「るいきゅうううんこっち向いてえええ!!!がんばってえええ!!!」

「うわ航キモ!」


黄色い声のマネしてはみたものの、男の俺がそんな野太い声援を送るもんだから、少し目立ってしまい、周囲からチクチクと視線が突き刺さるが関係ない。

るいはこんな大勢の中の俺の声にちゃんと気付いてくれたようで、大勢の人が居るにも関わらずこっちを見てにこりと笑ってくれた。


すると、そんなるいの笑みを見落とさなかった女の子たちからまた『キャー!!!』と歓声が沸き起った。


どうだ、見たか。
普段仏頂面なるいの笑顔は、破壊力抜群なのである。


『それでは!アピールタイムへ入りたいと思いま〜す!』


出場者全員が紹介されると、すぐにアピールタイムへと移り、エントリーナンバー順に出場者は何かしらの得意技を披露してゆく。


「矢田くんなにやるか聞いてる?」

「ぜんぜん。」


るいなにやるんだろ。

るいには得意なことは多いけど、いざ得意技は何か、って聞かれると、るいの得意技が何か見当もつかない。


るいの出番を心待ちにしながら、出場者の得意技を順に見送る。


歌を歌う人、ダンスをする人、けん玉する人、バク転する人。


「って仁の得意技けん玉かよ!!!」

「あははは!やばい仁くんいいぞ!」


思わぬところで友人の得意技を知り、俺となっちくんは暫く笑いが止まらなかった。


そして再び、拓也ちゃんの出番がやって来て、これでもかというほどの歓声が沸き起こる。


拓也ちゃんもなにやんのかな。
あの人も得意なこと多いだろうしな。


『こんにちは〜、どうも、黒瀬拓也です。今日は高校ん時の後輩でもある矢田にはガチで負けたくないんで、真剣にアピール考えてきました!あいつまじ強敵なんで!』


チラリとるいに視線を向けながらマイクで話す拓也ちゃんに、会場は一段と盛り上がり、騒がしくなった。

そして舞台の端ではるいが苦笑を浮かべている。


一体、拓也ちゃんが真剣に考えてきたというアピールとはなにか…

皆がジッと拓也ちゃんを見つめる中、拓也ちゃんは何故か舞台上で正座をした。

手には一本の筆。

床には一枚の縦長の半紙が置かれている。


そして、その半紙にスラスラと字を書く拓也ちゃん。

皆がジッとその様子を見守る。


筆を置き、顔を上げて、拓也ちゃんは半紙を掲げながら口を開いた。


『黒瀬拓也に清き1票、お願いします!』


半紙には【 よろしくお願いします。 】と綺麗な字で書かれていた。


『まじで矢田には負けらんないんで。なりふり構っていられないので、小学校の時習ってた書道で勝負しました!』


この時俺は、得意技がどうのこうのとかよりも、この時の拓也ちゃんの姿勢がかっこいいと思ってしまった。

きっと拓也ちゃんなら得意なことたくさんあるだろうし、手を抜いてでもグランプリは狙えるだろうけど。それでも真剣に何かひとつで勝負しようとした、この姿勢がなによりかっこいいと思った。


舞台端にいるるいの表情は、苦虫を噛み潰したような、なんとも言えない顔をしている。

拓也ちゃんを人一倍尊敬しているるいのことだ、るいも、俺と同じ気持ちかな…。



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