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「ぶはははは!るい!お前ちょろすぎねえか!?」


翌日、俺の顔を見るなり爆笑してきやがった仁の頭をとりあえず鞄で殴りつけた。


「友岡くんに聞いたぞ、『グランプリ取ったらいっぱいチュッチュしてあげるね』で二つ返事だったらしいな!」

「うるせーぞ仁、そんなん断れるはずねーだろハゲ。」

「ハ!ゲ!だって!ぶはは!ちょ、ほんと笑うからやめて、俺ハゲてないし!」


クソ、うぜー仁。こいつ航と連絡取んのやめてくんねーかな。


仁の所為で、すぐに女の子たちに俺がミスターコンに出る、という話が広まり、瞬く間にエントリーされてしまったのだった。


いや、でも、まあ、出ると決めたのは自分。

男に二言はない。


しかしそうは言ってもグランプリになるには強敵がいるわけで。そもそも会長以外にも敵はたくさんいるだろう。

俺は一体、何を武器に挑めばいいのだろう。





「へえ、意外だな。矢田出るんだ?」

「まあこれには深い訳がありまして、」

「どうせ航にそそのかされたんだろ?」

「…いや、まあ、そんなところですかね。」

「ククッ、図星かよ。」


ミスターコンエントリー一覧に載ってしまった自分の恥ずかしい顔面を尻目に、構内で出会った会長と会話する。


さすが出場2回目で慣れているのか、写真に写る会長は爽やかな笑みを浮かべている。そんな人の隣には載せて欲しくなかった。

顰め面な自分が恥ずかしい。


「しっかし嫌そうな顔してんなお前。出る気あんのかよ。」

「エントリーした時点で覚悟はありますけど向き不向きってありますよね。」

「まあお前が拒否したとしても運営に無理矢理出さされていただろうし良かったんじゃねえの?」

「はい?なんすかその不穏な話。俺は航がグランプリ取ったらいっぱいチュッチュ、……あ、いや、なんでもありません。」

「……お前って結構単純なやつだな。」


しまった。思わず航に言われたことが口からつるりと出てしまい、生暖かい目で俺を眺めながらそう口にした会長に、俺は何も言い返すことはできなかった。

どうせ俺は、ちょろいやつだ。航限定で。


「じゃ、お前にはそう何度も負けてらんねえし、今年のミスターコンは張り切ってこうかな。」


エントリー一覧を眺めながら、会長は楽しそうに口を開いた。


「昨年のグランプリにそう言われましても…。」

「いや、お前が手強いことはとうの昔に学んでるからな。」

「まあ俺もチュッチュがかかってるんで負けられませんけどね。」

「ハハッ!お前言うようになったなあ!お前の口からチュッチュとかいう言葉聞くとか気持ちわりぃ!航に影響されすぎだろ!」


会長は俺にそう言いながら、珍しく腹を抱えて笑っていた。


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