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俺たちが予約していたのはバイキング料理店で、食べることばかり考えている男子たちはさっそくお皿の上に山のように料理を盛っている。
「あんたら取りすぎじゃない?そんなに食べれんの?」
「余裕だろ。なあ?」
「おう、余裕余裕。」
るいの前ではしおらしい態度の女子も、他の男子の前では全然で、山のように食べ物を取る男子を冷めた目で見ている。
しかし、「食い放題だからいっぱい食わねえとなぁ。」と言いながらお皿いっぱいに食べ物を取っているるいの姿もそこにはあり、「だよなぁ!矢田も食いまくろうぜ!」と男子たちは盛り上がりを見せ始めた。
美味しいご飯を食べながら、男女共に話題となるのはやはり恋愛話だ。
「そういや矢田って彼女いんの?」
これは先程、女子から男子に聞いてくれと頼まれたことで、さっそく男子はるいに問いかける。
するとるいは、無言で中学の頃は見せたこともないようなにっこり満面な笑みを浮かべた。
その表情こそ、答えは“イエス”と言っているようなものだが、るいは「まあまあ。俺の話はいいから。」と言って、ぱくりとサラダを口にした。
「あ、その顔、居るんだ?」
ここで俺がそう問いかけると、るいは俺の目をジッと見つめて、静かに口を開いた。
「時人とは1回会ってる。」
「……へ?」
「俺の好きな人。」
それ以上は何も話す気が無いようで、るいはまたサラダをぱくりと食べた。
俺が、1回会ってる…?
るいの、好きな人に…?
………え、いつ?どこで?
そんな記憶、俺には…、あっ…!
無いことも無いが、でもそれは、
……その人は、男だ。
まさかとは思うものの、それ以外にるいとの繋がりで会った人間が思い浮かばない。
ううんと悩む俺を横目に、るいはクスリと笑った。
きっと俺が悩むだろうと、分かっているからるいは笑ったのだろう。
「…あのやんちゃそうな、るいの友達…?」
小声でるいに向かって心当たりのある言葉を口にすると、るいはチラ…と控え目に俺に視線を向けながら、何も言わずにコクリと頷いた。
それ以上、その場でるいが自分のことを話す事は無く。
誰かに何か聞かれても、はぐらかしたり、質問をそのまま相手に返したり。
まあ元から自分のことをペラペラ人に話すような奴では無かったけど、きっとるいには、話したくても話せないことだったのだ。
それからバイキングの時間はあっという間に終了し、これから二次会でカラオケでも…という話が出たが、るいが「俺はもうここで」と帰る発言をしたため、結局お開きになった。
残念そうにしている女子たちだが、るいが帰ると言うのなら仕方ない。
「矢田くんまたね!」と名残惜しそうにしながら彼女たちは帰っていった。
俺の帰る方向も彼女たちと同じ方向だが、せっかく久しぶりに幼馴染みに会ったのだ、少しくらい遠回りしようとるいが帰る方向へ共に足を進める。
「付き合ってんの?」
「付き合ってる。」
唐突な俺からの問いかけに、るいははっきり頷いた。…まじか。
昔からモテモテな幼馴染み。付き合うならきっと相手は、超絶美人か可愛い子だろう、と思っていたら…。
「意外なとこいったな。まさか男と付き合うとは…。もしかして昔から恋愛対象男だった?」
「ううん、違う。航だけ。」
「あ、そうそう、思い出した、航くんな、航くん。」
「すげえ可愛いんだよ。」
「…へえ、そうなんだ。」
どこが可愛いのかさっぱりわからん。
かっこいい、の間違いじゃないのか。
聞いてもいないのに語り出したるいの表情は、ゆるゆるに緩み始めた。
「出会った頃はやんちゃな奴でさぁ、どうしようもないバカだったんだけど、これがまんまと惚れてしまったわけですよ。」
「ふぅん、そうなんだ。」
ところでよく喋るなぁ。同級生と別れた瞬間、ペラペラ語り出したぞ。
「ほんとは前回時人と会った時にはすでに付き合ってたんだけど。」
「うわ、まじか。」
「時人にはいつか話したいと思ってた。」
うんうん、顔見たら分かるよ。
話したいって顔に出てる。
てかめっちゃにやけてるよこの人…
「るいやっぱキャラ変わったよなぁ…。」
しみじみしながらそんな言葉が思わず口から溢れると、るいは嬉しそうに頷いた。
「航の所為。」
「うん。……だろうな。」
その後もるいは、まるで喋りたくてしょうがない、というように、聞いてもいないことをベラベラと話してくれるのだった。
多分それは、俺が昔からの旧友で、るいに信頼されてるから。こうしてるいから自分のことを話してもらえるのは、すごく嬉しい。
今まで見たことも無いようなにやけ顔を見せる幼馴染みに、俺はよかったなぁ。幸せそうで。と思いながら、その後もるいの話に耳を傾けたのだった。
そういや思い返せば、あの日るいは、友達ばかり見ていたな。
なるほど、そういうことだったのか。
幼馴染みの変化と恋話 おわり
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