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『もしもし、るい?久しぶり!…あのな、いきなりで悪いんだけど…、次の日曜って暇…?』
突然、俺の幼馴染みである美作 時人から連絡が来たかと思えば、恐る恐る俺の予定を聞かれ。
確かその日はバイトもねえし、何も無かったはずだから、「まあ暇っちゃ暇だけど。」と答えたら、途端に時人はテンションを上げながら「おー!良かった!」とホッとするようにそう言った。
いや、何が良かったんだ、まず用件を言えよ。と言いたい気持ちを抑えて、「なんかあった?」と問いかける。
これは勝手な俺の意見だが、相手の予定を先に聞いてから用件を言われるのはあまり好まない。
何故なら、その日を暇だと答えた以上、その後に言われた用件や誘いを断わり辛くなるからだ。
『あー…、それがさ、久しぶりに中学の仲良かった奴で集まって飯でも食いに行こうって話になってるんだけど矢田くん誘えって言われてて…』
そして、時人からの用件を聞けば、やはり暇だと答えてしまったことに後悔する。嘘でも適当にその日はまだ分かんねえとか言っときゃ良かった。
「え、…中学の仲良かった奴?…って言われても俺お前としか仲良くなかったんだけど?」
正直、仲が良かったというのがどのグループのことか知らないが、俺が誰かに飯を誘われるほど仲が良かったグループに属しているとは思えない。
時人もそれは分かっていたようで、『あー…いや、まあ…うーん…でも、』と返答に困りながら苦笑している時人の表情が目に浮かぶ。
「まあお前とは久しぶりに会いたいし、また今度飯でも行こうぜ。」
はっきり断わりの言葉は言わなかったものの、この流れなら俺は不参加で、という意味で取ってくれるだろう。と思っていたのだが、『や、待って待って、日曜暇なんだろ?』と痛いところを突っ込まれてしまった。
「いや、言い忘れていたが大事な用があったんだった。」
『絶対嘘だろ!?暇って言ったよな!?』
「え、言ってない言ってない。」
『言ったっつーの!なにとぼけてるんだよ!てかるいなんかキャラ変わったよな!?』
「キャラ…?って言われてもなぁ。」
『まあそれはいいや、日曜はるい強制参加だから!るいがもし日曜無理だったらじゃあ再来週の日曜誘ってってあの子に言われてんだからな!』
「…あの子?って誰?俺女の子来るなら行かねーよ?」
『や、大丈夫男も俺入れて何人か来るから。』
「いやそういう問題じゃなくて、」
『詳しいことはまた決まったら連絡するから!』
「おい聞け、」
『じゃあそういうことで!またな!!』
「おい!!!!!」
最後は時人に一方的に通話を切られ、通話終了と表示された画面に向かって無意味に怒鳴る。
「誰から?」
「…時人。」
俺の隣で静かに話を聞いていた航の問いかけに答えると、航は「ふーん。行ってくれば?」とまだ何も話していないにも関わらず、内容を察したようにそう言ってきた。
「…誰が来るかも分かんねえ中学の同級生の集まりにだぞ…?気乗りしねえよ…。」
「時人くん来るんだろ?ならいいじゃん。」
「…まあ、そうだけど。女の子も来るんだぞ?」
「うん。だから俺が行って良いって言ってるんだから行けよ。俺が行くなって言ったら行きたくても行けねーんだからな。
…行けるうちに行っとけよ?」
航はそう言って、ニッとやんちゃな笑みを浮かべた。
なにその航に手綱を握られてる感。
…すげえ、イイ…。
俺は航が行くなって言うなら行かない。
「俺は行くなって言ってほしい。」
「よし、行ってこい。」
航は爽やかな笑みを見せながら、俺に向かってグッと親指を立てた。
…航のバカ、行くなって言ってよ…。
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