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「おっしゃー!りとくん!まずどれから乗る!?」
「決まってんだろ!一回転だ!!!」
入場ゲートをくぐり抜け、高まるテンションを抑えられずに早歩きで前に進む。
りとくんも今日はかなりウキウキした様子を見せており、年相応の少年のような楽しそうな表情だ。
お兄ちゃんとは真逆で、どうやら弟は絶叫系余裕派らしい。
だんだん視界に入り込んでくる一回転しているレールを満面の笑みで指差すりとくんの後を追い、俺たちはまず一回転するジェットコースターの列に並んだ。
「りとくんは絶叫系余裕なんだな。」
「あ、もしかして兄貴絶叫系苦手なわけ?」
「あれ?もしかして知らなかった?」
「うん。だって兄貴絶叫系乗らねーもん。」
りとくん。それ“乗らない”、じゃなくて“乗れない”、だよ。
家族で遊園地来た時とか、るいはきっとなにも言わずに絶叫系を避けてたんだろうな。『俺休憩しとくからお前ら乗ってこいよ。』とか言って。
るいならあり得そうだ、と俺はそんな光景を想像してひっそりと笑った。
「じゃありなちゃんは?」
「りなはギャーギャー言いながらも乗ってたぞ。あいつの隣で絶叫系乗ると鼓膜破れそうだからもう絶対乗りたくねー。」
そういやお前のお兄ちゃんも、ギャーギャー言いながら乗ってたぞ。
りとくんは知らねーんだろうな、ギャーギャー叫んで絶叫系乗ってるお兄ちゃんの姿。
りとくんにも見せてやりたいなぁ、ってそんなことを思いながら、少しずつ列は前へ進む。
「やっば!あの人すごいイケメン…!」
「わっ!ほんとだ、ちょータイプ!」
列を並んでいると、すれ違う女の子がりとくんを見るたびにイケメンイケメンとはしゃいでいる光景を目にするのはお兄ちゃんの時と同様で、ここの兄弟やはりさすがである。
「イケメンイケメン言われてんぞ。」
「俺?」
「うん。」
「俺のどこがイケメン?」
「え?顔だろ。」
りとくんは思いの外、イケメンという言葉に食いついてきた。
りとくんの問いかけに間髪入れずに答えれば、りとくんは「じゃあ兄貴は?」とまた問いかけてくる。
「るい?るいは全部イケメン。」
おっと、これじゃあノロケみたいだな。って、でへへとにやけそうになってしまっていた俺に、りとくんはちょっと不機嫌そうにむっと唇を尖らせる。
おいおいどうした弟よ。
その不機嫌そうな表情はちょっとお兄ちゃんそっくりだ。
りとくんはふん、とそっぽ向いて、なにも喋らなくなってしまった。
自分からお兄ちゃんの話題振ってきて、勝手に拗ねちゃったぞおい。りとくんお兄ちゃんのこと意識しすぎだ。
「ほれ。飴ちゃんやるから元気出せよ。」
俺はそっぽ向いているりとくんに飴ちゃんを1個差し出すと、りとくんは俺の手から飴ちゃんの袋を受け取った。
袋を開けて、ポイと飴ちゃんを口の中に放り込んだりとくんが、口の中でコロコロと飴ちゃんを転がしながらチラ、と俺の方を向く。
そしてまた、りとくんは俺に問いかけた。
「じゃあ兄貴の欠点は?」
「…るいの欠点?」
少し考えて、逆にその問いかけをりとくんに投げ返してみた。
「ちなみにりとくんはなんだと思う?るいの欠点。」
「わかんねえから航に聞いてる。」
すぐに返ってきたりとくんの返事に、弟に欠点を語られないるいを俺は凄いと思った。
俺は兄ちゃんの欠点ならいっぱい言えるぞ。
やたらとかっこつけなくせになんか空回ってる気がするとことか、ちょっと落ち込んだらうじうじしまくりでうざってえところとか。
出てくる出てくる。我が兄の欠点。
でもりとくんからはそれがない。
りなちゃんから見ればるいは自慢のお兄ちゃんだけど、りとくんからしたらそんな完璧な兄の存在は自分と比べられて嫌だった、とか、あるかもしれねえな。
「じゃありとくんお兄ちゃんの欠点探し頑張れ。」
人それぞれ、その人物の見え方は違うから、りとくんから見たお兄ちゃんの欠点を探し出すのは面白いかもしんねえぞ。
因みに俺から見たるいの欠点は、嫉妬深すぎて周りが見えなくなるとこだったり。
でも俺からしたらそんなるいも大好きだから、結局はあいつ、欠点なさすぎ。最強だ。
りとくんとそんな話をしていたら、すぐに乗り場まで辿り着いた。
「おー。やっと来たな。」
「1番前がいいなー。」
「1番後ろに決まってんだろ。ジェットコースターは1番後ろが1番楽しいんだよ。」
「えぇ?そうか?」
「あ、1番後ろの席にしてもらっていいすか?」
ってこいつお姉さんに頼んでやがる!!!
係員のお姉さんは笑顔でりとくんの希望に答えてくれた。
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