3 [ 78/163 ]
「食った食った。」と満足気なりとと共に、焼き肉屋を出る。
夏というクソ暑い季節、女性の露出度は高く、胸元が広く開いた服からは胸の谷間なんかが見えてしまう人もいて、そんな人に限って逆ナンしてくるから、一発ヤれそうだな。だなんて感想を抱くものの、りとはそんな逆ナンを無視するようにスタスタと歩いていってしまう。
ここらへんがちょっと矢田先輩っぽいなと思った。
「あーヤりてー。」
思わず本音が漏れる俺を、りとがニヤニヤ笑いながら視線を向けてきた。
「よっ、欲求不満の雄飛くん。」
「そういうお前はどうなんだよ。」
「やりたくないこともなくもない」
「はいはい、やりてーんだろーが。」
「やりたいと思える人がいない。」
サラッとりとの口から出たその言葉が、恐らくりとの本音だろう。
誰とでもやりたいとは思わないあたり、矢田先輩寄りの考えの持ち主かもしれない。まあ兄弟だし似てる考えもあるだろう。
その後は、「あれは?」「あの子は?」とりとのタイプの女を探す遊びをしていたけど、どれだけ美人でも、どれだけ可愛くてもりとは興味無さそうで、りとのタイプ探し遊びはつまらなくてすぐに終了した。
「お前ってもしかしてもしかしなくても童貞なの?」
会話をしていく中で、そんな疑惑が浮上し、ストレートに問いかければ、りとはパチンと指を鳴らした。
いやいやなんだその反応。
そしてその指が俺を指す。
「正解。」
「いやドヤ顔で言ってんじゃねえよ。」
間髪入れずに突っ込むと、りとはケラケラと笑っていた。ここの兄弟やっぱ似てるわ。
イケメンなくせに簡単には童貞捨ててないあたりが。と、俺はその日、矢田先輩とこの弟を照らし合わせながら、りとの観察をしていたのだった。
「ちなみに兄貴と航ってヤってんの?」
ふと思いついたように聞いてきたりとに、あ、こいつ兄貴のそういうことは知らねーんだな。と思いながら、適当に「さあ?」とすっとぼけておいた。
「気になるならお前の兄貴に直接聞け。」
「いや、航に聞くのが一番おもしろい。」
「おもしろいって…。航先輩のことからかうと兄貴に怒られるぞ。」
「それもまたおもしろい。」
りとは、航先輩と矢田先輩の話をしながら、またケラケラと楽しそうに笑っている。
勝手にりとは矢田先輩とは不仲なのか、というイメージを抱いていたが、笑いながら自分の兄貴の話をしているあたり、兄貴への関心があるんだな。と思った。
「じゃあまた。あ、秋に文化祭あるから遊びに来いよ。」
「おー行く行く。」
その日はそんな言葉を交わして、りととは別れた。
なかなかに楽しい1日だった。
雄飛とりとのとある1日 おわり
2016/04/05〜05/30
拍手ありがとうございました!
[*prev] [next#]