悲嘆に暮れる野郎共 [ 49/51 ]
「あぁ可愛い…咲田くん可愛い…。」
中等部の頃から密かにずっと片想いしていた相手、咲田陸。いや、密かにっつーか多分周りにはバレバレだったと思うけど、バレたところでべつに痛くも痒くもなく、それどころか周りもみんな咲田くんのことが好きだった。つまり周りの男みんな敵だった。
「…ふふっ。」
自分の席で一人頬杖をついて、にこにこしながら窓の外に広がる空を眺めている。なんて絵になるんだろう。咲田くんが居る周辺が神々しく見えるのは俺だけ?
それにしても笑顔だな。そんなに嬉しそうな顔をして、一体なにを考えているんだろ「あ!想!」う、……チッ。
現れやがったな、早見想。
「陸」と咲田くんの名前を呼ぶ声に振り向いた咲田くんの表情は、それはそれは可愛い笑顔だった。
「A組英語どこまで進んだ?本文の訳知ってたら見せてほしいんだけど。」
「さっき終わったところだからノート貸すよ。」
「まじ?サンキュー。あとで返す。」
咲田くんからノートを受け取り、ペラペラと咲田くんのノートを捲りながら去って行った早見を、咲田くんはうっとりした表情で早見が教室から出て行くまでずっと眺めていた。
「クソぉぉおおおおお!!!!!」
突然教室内に雄叫びが聞こえたのはその直後だ。
椅子の上に立ち上がってダンダン!と椅子を力強く踏んでいる。クラスの中でもその騒がしさから目立つ男で、周囲はそれを見て笑っている。
何故このタイミングであいつが雄叫びを上げたかと言うと、あいつも咲田くんに片想いをしていた一人だったから、早見の存在が憎らしいのだろう。
「本文の訳くらい電子辞書で調べろよクソがッ!見せつけてんのか!クソッ!」
ガン!ガン!と騒がしく椅子を踏むクラスメイトの声に、教室を出たはずの早見がジーとそいつのことを教室の戸の側から見ていた。
その早見の視線に気付いたそいつは暫し黙り込み、威嚇する犬のような態度で早見を睨み付ける。
しかし早見は、冷淡な顔付きで「ハッ」と鼻で笑い、興味無さそうにさっさと目を逸らし立ち去っていった。
「クソぉぉおおおおお!!!!!」
そして、本日2度目の雄叫びが響き渡る。
「まあまあ落ち着け。」
「分かる、分かるぞ。」
「お前の気持ちはよく分かる。」
周囲のクラスメイトは皆一丸となってそいつを宥めており、互いの傷を舐め合っていた。
そしてその時、咲田くんは……
(休み時間に想に会えたの嬉しいな。)
さらににこにこと、幸せそうな表情で空を眺めていた。
頭の中で早見の顔でも思い浮かべているのだろう。まるで咲田くんの周りには花が飛び散っているように幸せオーラを撒き散らし、その姿はやっぱりとても可愛かった。
「クソぉぉおおおおお!!!!!」
悲嘆に暮れる野郎共 おわり
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