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「陸、おはよ。」


朝がきて、食堂の入口で俺を待ってくれていた想に名前を呼ばれて、さっそくドキドキさせられた。


「…おはよう、…想。」

「うわっ!もう名前呼び合っちゃってピンク色のオーラ出てる!なんか寂しいから俺も混ぜろ!!」

「あ?付き合えっつったり寂しいっつったりなんなんだよお前、かまってちゃんかよ。」

「俺だけハミゴは嫌なだけー。」


想と一緒に食堂に来た矢野くんは、そう言いながら想の肩に腕を回した。

仲の良い2人のことは見ているだけで楽しい気持ちになるけど、そうやって想に触れ合える矢野くんはちょっと羨ましい。


「暑苦しいんだよ!ハミゴにすんぞ!」

「えっやめろよ!」


2人のやりとりを横で見ていた俺だったけど、矢野くんの腕を振り払った想が俺の腕を掴んでグイグイと引っ張りながら食堂の中へ入っていった。

その後ろを矢野くんが追いかけてくる。

いつも賑やかな2人は、注目されやすい。

俺もそんな2人を遠くから眺めていた1人だ。


「冬真うるせえし今度から2人で飯食う?」

「おい!だからハミゴにすんのやめろって!」


矢野くんにもはっきり聞こえる声で、ニッと笑いながら俺に話しかけてきた想に、矢野くんは必死で訴える。


俺は楽しい2人の雰囲気に、ついつい笑いが溢れる。


「ううん、俺想が矢野くんと楽しそうに笑ってるところ見るの好きだし。」


だから俺は、3人でご飯を食べられるのが嬉しい。


俺が想に返した言葉を聞いて、何故か矢野くんががっかりと肩を落とした。


「咲田く〜ん…俺が想と楽しそうに笑ってるところに惚れてくれても良かったのに〜。なんで想なわけ?」

「え?…え、いや、それは…。」


矢野くんの疑問に、ジー、と俺の目を見つめて俺の返答を待つ想。…だから、その目に弱いんだってば。

思わず下を向いてしまい、言葉に詰まる。


「…一目惚れ、かな。」


もう一度チラリと想を見上げてから、パッと思い付いたことを口にすると、今度は想がサッと俺から目を逸らした。


「…一目惚れ、ねぇ。悪趣味だな。」


自分でそんなこと言っちゃうんだ。
ちょっと耳赤いけど照れてる?

俺は想の横顔をこっそりと観察しながらクスッと笑った。


2人と仲良くなれてから、毎日がすごく楽しい。

ご飯食べて、学校行って、勉強して、何気ない俺の日常が、2人のおかげでパッと色付くように華やいだ。


一緒に昼ご飯を食べれた、その時間だけでも俺は十分満たされていると思っていたけど、知れば知るほど、1日ごとに追加されてゆく、甘酸っぱい恋する気持ち。


「それだけじゃないけど。想の楽しそうな声とか、矢野くんと喧嘩してる時とかも好き。」

「なんだそりゃ。」


まだまだどんどん増え続けていくだろうこの気持ちに、俺はこの何気ない日常が、楽しみで楽しみでしょうがない。


「そうだ、プチトマト!今日はお弁当にいっぱい入れてきた。」

「おっ、やったね。昼は2人で食う?」

「おい!だから俺をハミゴにすんなって!!」


今度は「くくくっ」と笑いながら、想が俺の肩に腕を回してくっついてきたのを、矢野くんが必死に引き離してきた。


想から引き離されたのはちょっと残念だけど、あまりに必死に引き離してきた矢野くんに、俺は食堂の真ん中で声を出しながら笑ってしまった。


ああもう、2人と居るとほんとに楽しいな。


こんな言い方をするのはちょっと変かもしれないけれど、想と矢野くん2人の“何気ない日常”にも、俺は恋をしていたのかもしれない。


何気ない日常に、
お わ り !

201?/??/ 公開 − 2020/11/09 完結


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