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学校から極力近いところにあるコンタクトが作れる眼科をスマホで検索して、最寄駅から電車に乗って咲田と共に眼科に向かった。


学校以外で咲田と過ごすのは初めてで、初めは少しぎこちない空気が続いたものの、そういえば咲田とは好きなバンドが同じだったなと思い出し、他にも好きなグループや音楽の話題を振ることで咲田との会話は結構弾み、あっという間に目的の駅に到着する。


眼科に到着してからは、待ち時間や俺が視力検査してもらったりしている咲田にとっては暇な時間でも、待合室に置いてあった本を静かに読んだりして待ってくれている。


冬真なら確実に『まだか』『早く帰りたい』などと文句を言ってきそうな状況だが、咲田は始終笑顔で付き添ってくれており、俺の中での咲田の印象がさらに上がってしまうのだった。


冬真と妙な会話をしたからやたら咲田のこと意識してしまってるじゃねーかよ。あー痒い痒い痒い。どうしてくれんだよバカ冬真。


運良く眼科は比較的空いてるほうで、コンタクトはすぐに作ることができた。

コンタクトを目に入れる時はちょっとびびったけどなんとか取り外しはすぐに慣れそうだ。

まだ目に異物が入ってる感はあるものの、これも慣れるとマシになるかな。


「咲田お待たせ。」


コンタクトを目に付けた状態で待合室で待つ咲田の元へ行くと、無言で俺を見上げてきた。


「まだ慣れねーけど眼鏡の枠無いのやっぱいいな。」


そんなコンタクトの感想を咲田に告げていると、突然ぱっと視線を逸らされ、咲田は手に持っていた本を元の位置に戻している。


「…眼鏡はもうかけねぇの?」


またチラリと俺を見上げてきたかと思えば、控えめにそう問いかけられた。どうやら咲田は、俺のコンタクト姿より眼鏡をかけている方が良さげな感じだ。


「眼鏡かけてほしい?」


咲田の問いかけに対して俺はストレートな質問で返してみると、咲田は返答に困ったように口を噤んだ後、コクリと小さく頷いた。


へえー。ああそう。そうですか。

咲田は眼鏡フェチなのか?


「じゃあ予備の眼鏡買うから咲田の好きなやつ選んで。」

「え、俺が選んでいいの?」

「だって俺拘りねえし。」


そう言った瞬間、咲田はすげえ嬉しそうな満面の笑みを見せてきた。

…おいおいなんだよ。
俺の眼鏡を選ぶのがそんなに嬉しいのかよ。


コンタクトを作るのでだいぶ時間を使ってしまったものの、咲田はかなり好意的だし、日が沈まないうちに近くの眼鏡屋を探して向かうことにした。


当然のように店頭には、俺が愛用していたような黒縁で野暮ったい眼鏡が並べられている。

もう二度とダサ眼鏡を買うことはないだろう。とその眼鏡を横目に他の眼鏡の見本を手に取ろうとした瞬間…


「やっぱりこれがいいなぁ。」


まさかのそのダサ眼鏡を手に取った咲田がぼそりと呟いた。


おい、まじで言ってんのかよ。

いや別に俺はそれでもいいけども。新しいの買ったのにまたわざわざダサイの選んだのかよって絶対冬真に言われそうだ。


咲田が手に持つ眼鏡をひょいと奪い取って、試しにかけて咲田の方を見ると、「あ、いつもの早見くんだ!」とすげえ嬉しそうな顔をされてしまった。


「……はぁ〜。じゃあこれ買うわ。」


そんな嬉しそうな顔をされてしまっては買うしかない。

冬真になにか言われたら『咲田がこれが良いって言うから』って言ってやろ。


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