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「うわー、無愛想なやつ。早見、だっけ?人の部屋に上がっといてお邪魔しますの一言も言えないわけ?」
背後で咲田の同室の奴は、俺に向かってそんな非難を飛ばしている。
その声に俺は相手の様子を窺うように振り返ると、俺の代わりに咲田が怒ってキッと奴を睨みつけたのが分かったが、俺はそんなことは気にもせずシンクに向き直り、スポンジを食器に滑らせた。
「咲田、洗ったやつここに置いといていい?」
「あ、うん、…ありがとう。」
「無愛想で常識なってない上に無視とか最低。矢野君と仲良いからって調子乗ってるの?」
まだ後ろでなんか言ってる奴に、食器を洗い終えた俺は向き直った。
「矢野君矢野君って、なんでこの場に居もしない冬真の名前が出てくるんだよ。おまえバカじゃねーの?気に食わない奴相手に無愛想且つ無視するのって常識じゃね?初対面のやつに眼鏡眼鏡って言うおまえの方が非常識だっつーの。」
俺の方が背が高いため、奴に近付いて見下ろしながら言いたいことを言ってやると、「へぇ」と小さく声を漏らしながら、奴は思わぬ行動に出た。
「驚いたなぁ。眼鏡取れば全然いけるじゃん。……え…、てか普通に矢野君と並べるよ。ねぇ、どうしてそんな眼鏡してるの?」
それは、突然スッと俺のかけていた眼鏡を取ったそいつが、俺の顔をまじまじと見つめながらそんなことを言ってきたのだった。
「はぁ?どうしてって、視力わりーからに決まってんだろ。」
返せ、と眼鏡に手を伸ばした時、さらに思わぬ行動に出た奴に、さすがに唖然とする。
というのも、俺の頬に手を添えて、奴の唇が俺の口に合わさったからだ。
突然のことに驚きすぎて、突き飛ばそうと思うも身体が固まって動かなかった。
「ちょっ、なにやってんだよ!!!」
しかし俺よりも先に反応した咲田が、声を荒げながら俺と奴を引き離すように割って入ってくれる。
咲田にトン、と軽く突き飛ばされた奴は、悪気も無いような態度でペロリと舌で唇を舐めていた。
「いいねぇ、早見くん。気の強い男前って僕、いちばん好みなんだー。」
ふふふ、と笑う奴の先程と随分違う俺への態度に、ぞぞぞ、と鳥肌が立った。
「…咲田、帰るわ。飯サンキュー、美味しかった。」
何とも言い難い雰囲気の中そう告げると、咲田は「う、うん…。」と何故か今にも泣き出しそうな顔で頷く。
「早見くんまたね。」
そんな咲田とは反対に、笑顔で俺に手を振る咲田の同室者。二度と会ってたまるかと奴を睨み付けて、俺は咲田の部屋を出た。
何度も服の袖で、奴の唇が当たった口元を拭ったが、それでもスッキリしない俺は、部屋に戻ってすぐさま風呂に入り、奴の唇の感触を洗い流すようにシャワーを何度も顔にぶっかけた。
思い出すだけで不愉快だ。
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