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「そろそろこの村にはいられないと思うの。ねえ、二人でどこか遠くへ行かない?」
「それは、この村を離れるということかい?」
「そうよ。誰の目もつかないところに行くの。そうね、森の奥深くとか、奥地の湖のほとりとか。素敵じゃない?」
「ああ、確かに素敵なことだけど……」
「エドワード、食人鬼がこの村にいるのよ。いつあなたが喰われたっておかしくない。そうなる前に、次の犠牲者が出る前に、ここを出なきゃ……」
「みんな俺に冷たいけど、ここは俺が生まれ育った村だよ。そう簡単に答えは……」

答えを出さないエドワードの腕を掴み、ヘレンはもう一度言う。

「お願い……もうこれ以上……」

か細い声で最後は聞き取れなかったが、どうにもここを出たい意志は伝わった。自らを掴むヘレンの腕に手を置き、エドワードは優しく微笑みかける。

「わかったよ。君がそう望むならそうしよう」

そう言ってエドワードは優しくヘレンを抱擁し、それに彼女も答えた。
そして二人は愛を確かめ合った。きっと二人ならなんとかなる。
生まれ育った村を出ても、どうにでも……。

エドワードは不快ではない疲労を感じながら、眠りについた。
彼はもう、ヘレンを迎え入れた直後のように冷たい床では寝ていなかった。

今は愛と共に、夜を越えるのが常になっていた。



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