15分チャレンジ | ナノ


▼ ALL―繋がるということ―

いつのことだったか、遠い話なのに身近に感じる話だ。
私達人間は、いつの頃からか人との関わりを避けるように生活をしていた。それによって、世界が大きく傾いていくことを、気にせずにいられない時代がいつしか訪れた。他人を無視して生きることが大変な損害だと、いくつもの大問題に直面してから愚かな人間はようやく気付いたのだ。
 そして私達人間は、一つの答えを出した。それは肉体的、精神的繋がりを保有し、共有すること。特殊な医薬を作りだし、神をも愚弄するような恐ろしい実験を行い、それを善とした。
 いくつもの、いや、何全何万との命を無駄遣いし、私達人間はその答えを実らせた。私達は成功した。成功してしまったのだ。人間は特殊な薬「オール」を使い、一つの肉体、一つの精神に「なる」ことに成功した。
それが善とされてしまった時代。私は、非人間的思考の罪で国から追われていた。

 「レイシャ!左の道だ!」
 薄暗い路地を走り回っているところを、レジスタンス仲間の男から無線で声を掛けられる。私は国の警備隊に追われていた。「オール」を使い、一個体になる予定だった人達を逃がしたからだ。私からすれば、何が罪なのかわからない。あんなおぞましい者になるくらいなら、何がなんだかわからないでも、助けてやりたい。「あれ」の中に含まれると、どうなるのかを教えてやりたい。みんな、わかっていない。
 「レイシャ、ぼさっとするな。目の前のドラム缶へ入るんだ、急げ!」
 先ほど声をかけてくれたレジスタンス仲間の男に誘導され、地下への入口へと滑り落ちる。中はスライダーになっており、近場の避難所へと抜けることができた。バカな警備隊め、一生路地を彷徨ってろ!
 「ありがとう、ガラド。おかげで逃げ切れたよ」
 助けてくれた仲間の男が出迎えてくれたので、私は礼を言う。ガラドはそっけなく「ん」と短い返事だけくれる。
 「一個体の様子はどう?」
 「ダメだな。あれはもう内部で精神崩壊が起きている。いつ肉の津波が起きるかわからない状態だ」
 「やっぱりね。よくそんな状態で新規の人間を繋げようと思ったな……」
 私達人間が「オール」を使って一個体の繋がりを得てから、実は重大な問題が起きている。それを国は隠していた。一定数の肉体、精神の繋がりを作ると、肉の塊となった一個体は、やがて内部での精神崩壊を起こし、完全に意識が消滅してしまう。そして肉体は精神によってその形を保有していたが、やがて肉は崩れていき、まるで津波のように流れて行ってしまう。それが医薬「オール」で繋がりを得た人間の最後になるのだ。
 私やガラドは元々国の研究機関の人間だったが、それを知ってから、「オール」の完全撤去と一個体になることを阻止するレジスタンスを組んでいる。だがなかなかうまくいかない。今の時代の人々は、繋がりこそが救いだと信じている。繋がりをないがしろにしていたあの時代に戻るには、人間は少々互いを求めすぎていた。



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続くような表記ですがこの作品はここまでとなります





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