15分チャレンジ | ナノ


▼ 世界に融ける

捨てる神あれば拾う神あり、と言ったところだろうか。
もうこの世の全てが嫌になって、何もかもが憎くて、全部消えてしまえと何度も願って、何度も叫んでいたらよくわからない世界に放り込まれた。
そして唯一目に移った謎の巨体が言ったのだ。

「いいだろう。お前の願いを叶えよう。啼き悦ぶが良い、人の子よ。お前は人の子を辞めたのだ」

それ以来私は、触れた物を黒い霧にしてしまう能力を手に入れた。
正直すごく良い能力だった。
私にずっと意地悪を言ってきた先輩をすぐに消しに行った。初めて人を霧にして消したけど、決して悪い気持ちではなかった。
寧ろその霧を浴びて、ひんやりとした心地よさを味わったほどだ。
人を殺した?とんでもない、私はただ霧を作っただけなのだ。
次に私の趣味を全否定してきた友人面のクソ女を霧にした。
その次は職場を霧にした。ニュースを見て、嫌な奴だな、悪い奴だな、と思ったやつは徹底的に霧にした。
罪人だけでなく、気に食わない一般人も霧にした。
私の癪に障るものは全て霧にして、世界へと溶かした。

気持ちいい。
おかげでストレスがかからなくなって頭痛が無くなった。
私の能力を目の当たりにした人は、私に絶対歯向かわなくなったし、特に近づいてもこなかった。
それでいい。私は孤独を手に入れた。

よく孤独になったら結局寂しいとか言う人がいるけど、私はそんなことはなかった。
愛する人も愛してくれる人もいないし、ただただ人を霧にするのが楽しかったし。

でも、ふと気付いた。
いらないと思った物だけを排除していたら、面白くなくなったんだ。
世界って、こんなにつまらなかったっけ。

私の世界は、広いけど、何にもなくなってしまった。
私は自分で消えることはできない。何も生み出すことはできない。

「我が子よ、愉しいか。悦か」

人間だった頃、力を与えてくれた巨体が再び現れた。
この様子を見て、愉しそうに見えるのかな。いいえ、と首を振った。

「そうか。では人の子に戻そうか、我が子よ。それか、お前も霧となり世界となるか」

ああ、それも悪くないな。
無くなった世界の一部になるってどんな感じなんだろうな。
霧になることを選ぶのは、迷わなかった。

そして私は、何もない世界の一部となった。
ああ、すごい。世界って、広い。




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