15分チャレンジ | ナノ


▼ 正夢

誰が本当のことを言っているのかなんてわからない時代だ。
私自身も本当のことを言っているのか、実は頭の中のことを言っているのかわからない時がある。

「今日さあ、死ぬ夢見たんだよね」

いつも通りの夕焼けを背に抱えた帰り道。彼女はそう言った。

「へえ。でも死に関わる夢って真逆の意味ってよく言うじゃん」
「そうだと良いんだけどね」
「何が不安なの?」
「いや実はさ、夢で見た景色と全く一緒なんだよね、今」

遠くから聞こえる子ども達の声。仕事が終わり、帰宅途中であろう大人達。犬の散歩をしている女性と、その子どもらしき男の子。自転車でゆっくりと下り坂を降りていく年配の女性。薄くて広い雲が流れていく、陽が沈む直前の朱い空。このいつも通りのありふれた景色を、彼女は目が覚める前に一度見ていたというのだ。

「ふーん。え、やめてよね、突然目の前で死ぬなんて」

あんまり信じていないので、からかうつもりで言った。
しかし彼女の顔は、とても歪んでいた。悲しいような、もう救いようのない奴だ、と言わんばかりのような瞳を私に向けている。

「アタシが死ぬ夢だなんて、一度も言ってないよ」

彼女がそう言った時、私は丁度交差点の横断に差し掛かっていた。左側から車のクラクションの音がする。
大型の車……恐らく貨物運送のトラックだろう。中年の男性の焦り顔がよく見えた。彼女は、大粒の涙を流していた。

可哀想に。彼女はこの惨劇を、目が覚める前にも一度見ていたのだ。
そして私は、彼女の夢の結末へとたどり着いた。




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