そこの話であってここの話
老人と少年がここにいました。
否、少年と老人がそこにいました。

少年は老人の隣にいました。
否、老人は少年の隣にいました。

老人には家族は一人しかいませんでした。
否、家族は少年しかいませんでした。
少年の家族も老人しかいませんでした。

二人はどんな時も一緒でした。
心の支えになったかと思えば、お互いの心を折ってもいました。

ご飯を取り合うこともありました。
でも、最後は二人でちゃんと分け合って食べました。
お肉だけは、少年がちょっとだけ多く食べていました。
お魚も、少年がちょっとだけ多く食べていました。

寝床を取り合うこともありました。
でも最後は二人でちゃんと寝ました。
冬になると、老人は布団を全部少年に渡します。
少年が寒くならないようにです。
そんな老人の心遣いも、少年はわかっていませんでした。

人から嫌われて、嫌がらせを受けることがありました。
どうして嫌われているのかは知りません。
老人はそれが人間社会だと諦めていました。
でも、二人は負けませんでした。
老人は出来るだけ少年に辛い思いをさせたくありませんでした。
少年の泣き顔を見たくなかったからです。

少年はどんなに辛くても、老人と一緒なのが嬉しくてたまりませんでした。
ずーっと一緒にいたいと思いました。
だから、何があっても老人の傍にいたかったのです。
だって、たった一人の家族なんですから。



そんなある日に、少年の灯が消えました。
原因は、栄養不足でした。
老人の努力も、虚しいものだったのです。



四角い箱の中に、少年は入れられていました。
老人の目は真っ赤です。
少年の手には、写真が持たされていました。
まだ幸せだった頃の写真です。



老人と少年がここにいました。
否、少年と老人がそこにいました。
いないはずの家族も、そこにいました。
少年の顔は、笑っていました。
箱の中の少年には、表情なんてありませんでした。



prev next

bkm