04

「いややる訳ないでしょ」
「え」

テニス部のマネージャーをやってくれ?冗談でしょ。
それとも彼は自分達が私に苦手意識を抱かれていることを理解できていないのだろうか。
それなら一度きちんと教えてあげる必要がある。

「あたし、あんた達と関わりたくないの。ろくな事なさそうだし」
「関わりたくない…って」
「まさか幸村君、皆が皆あんた達の事を好きだと思ってる…なんて考えてる訳じゃないでしょうね。自惚れんなよお馬鹿さん?」
「なっ……てめぇ!」

目を見開く幸村君やこちらを睨んでいる切原君達を尻目にお弁当箱を鞄にしまった。
もうこんな所にいたくないし、教室に戻る。

「でも君、蓮二と付き合っているんだろう?」
「……はぁ〜……」

あまりの阿呆ぶりに深いため息が出た。
私はさっき恋人でも友達でもないと言ったのに、聞いていなかったのだろうか。いやただ信じていないだけか?
私は立ち上がり階段へ続く扉を開きながら言った。

「その質問には柳蓮二が答えてくれるんじゃないですか」






放課後。
案の定、昼休み男子に呼び出された美輝には新しい恋人ができた。
今まで美輝は私と一緒に帰っていたが、新しい恋人さんは登下校を共にしたいらしい。
私は一人で帰宅する事になった。

「美輝は優しすぎなんだよ……ったく」

そういえば昔美輝に、どうして来るもの拒まず去るもの追わずなのかを聞いてみた事があった。
美輝は確か『私にとって付き合うって事は、幼稚園児の子守りをするのと同じようなものなのよ。意味分かるかしら?それにせっかく勇気を出して告白してくれたのだから、一時の夢を見せてあげるのも悪くはないでしょう?むしろそうでないと相手が報われないわ。等価交換よ、何事もね』みたいな答えを返してくれた。
そしてその後に独り言のように小さく呟いた、『それに……"運命の相手"っていうのが見つかるかもしれないじゃない?』という言葉はきっちりとこの耳で拾ってある。

支度を済ませさあ帰ろう、と教室を出て廊下を少し歩いた。
ここで私は、逆の階段を使えばよかったと後悔する事になる。

「やあ」
「…」

ゲーム風に言えば
----------
テッテレレ〜ン♪
ユキムラセイイチが現れた!

コマンド
・戦う
・助けを呼ぶ
・逃げる
----------
…って感じだろう。

私は頭の中に現れた空想のテレビゲームを必死に操作した。

「(コマンド、逃げる)」

ラスボスが主人公のレベル上げ時点の道端に出てきたら誰でも逃げるよね、それと一緒だと思うんだ。

そう頭の中で式を組み立て頑張って早足で歩くが何故か距離は広がらない。
こ…こいつ、ついてきやがる……!

「事の成り行きは蓮二から全部聞いたよ。大変だね」
「聞いたなら分かるでしょ?あたしに話かけないで」
「……どうしてそんなに、俺達の事を毛嫌いするんだい?」
「………」

逃げるを選択したのに強制的にバトルモードに突入した気分だ。
ラスボスは主人公のレベルが上がる前に叩いてしまおうと言う作戦らしい。

どうして毛嫌いするか?
そんなの決まってる。嫌いだから。

どうして嫌いなのか?
嫌いなものは嫌い。そこに明確な答えなんてなくて、ただ自分の魂が嫌ってるだけ。たぶん生理的に受け付けられないのだろう。

私はなおも話かけようとする幸村君を無視し、全力で走り出した。



「なるほど蓮二が気に入る訳だ。………それにしても、随分と足の速い子だなぁ。フフ」






制服というものはなんとも苦しい服である。
そのため私が帰宅してまずする事といったら制服から部屋着に着替える事なのだが、今日は帰宅してそうそう父が玄関先まで駆けつけてこう言った。

「鏡介君が事故にあったらしい。すぐに病院に行くぞ!」







鏡介が事故にあった事を信じられないまま病院に到着した。
少しばかり小走りで進む父についていくと、一つの病室についた。名前は間違いなく中岡鏡介と書いてある。
ノックをし部屋に入ると、医師と看護師、泣いているおばさんとそれを支えるおじさんがいた。
そして彼らの中心にあるベッドには一人の少年が横たわっている。
……鏡介だ。

「鏡介…?私だよ、名前だよ」

体の所々に包帯を巻き、いくつかの器具を体に繋げて眠る鏡介。

「……ねえ鏡介。……鏡介!」
「……名前」

ベッドの隣に立ち鏡介に話かける。
……反応はない。

「鏡介……ねえ鏡介起きてよ!いなくなっちゃ嫌だよ!ねえ鏡介ったら!!」
「………名前ちゃん…っ」

鏡介の体を揺さぶりさっきよりも大きな声で話しかける。
……反応はない。

「っ…嘘、だよね?お嫁さんにしてくれるって言ったじゃん、ずっと一緒にいようって約束したじゃん!……いなくなっちゃいやだ!!」
「名前!!」
「とう…さん」

鏡介にしがみついてもそこにあるのは今までみたいな温かい鏡介の体じゃなくて、ただただ伝わるのは氷のような冷たさだけ。
私を呼ぶ父の声がやけに大きく響いて涙が溢れ出す。

「もう、止めろ」
「っ………お願い鏡介、消えないで………っ」

分かってる。本当は分かってるんだ。
鏡介はもう目を覚まさない。もう名前も呼んでもらえないし笑顔を見る事もできない。
……二人が一緒に暮らす幸せな未来も、永遠に来ない。


それから私はしばらくの間鏡介の前で泣きじゃくった。
どれ程か時間が立ってから父さんに呼ばれたが、私はそこを動かなかった。
そんな私は父さんとおじさんの二人がかりで病室から連れ出された。
私は視界が病室を捉えられなくなるまで、その眼に鏡介をうつし続けた。





父さん達は気を使ってか、しばらく私を一人にしてくれた。今は屋上のベンチに座っている。
本当はおじさんだって泣きたいはず。本当はおばさんだって鏡介にすがり付きたいはず。
それなのに私は、自分の気持ちを抑えられなかった。二人共私に譲ってくれたんだ。
ぼんやりと景色を見渡していると、隣にある人物が腰を下ろした。
……美輝だ。

「…鏡介さんに会いにきた」
「…そっか」
「…あんた、大丈夫なの?」
「…分かんないや」

私にいろんな事を教えてくれたのは鏡介だった。
ファッションの道を歩こうと決意したのも鏡介のおかげだった。
いつか私が服を作って、それを来た鏡介がステージを歩くんだ……って。
私は一流のファッションデザイナーに、鏡介はカリスマモデルになろう。そう約束した。

「もう……なんも分かんないよぉ………っ!!」

私には鏡介が全てだった。
いつでも私を笑顔にしてくれた鏡介。私にたくさんの愛を注いでくれた鏡介。いつもいつも側にいてくれた鏡介。
そんな大好きな鏡介は、もういない。

私は親友の胸を借り、ただただひたすら泣きじゃくった。






Good-byeマイプリンス
(鏡介、私の世界は止まっちゃったよ)
(何故あいつは、俺達を拒絶する?)



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