02

次の日。
今日も今日とて遥か昔のどこかの誰かさんに勝手に義務づけられた教育を受けに学校へと赴いた。
かなりの頻度で出てくる欠伸を抑えようともせず自分の机につく。

「おはよ美輝」
「おはよう。今日も眠そうね」

彼女は友人の(というか私は親友だと思ってる!)星乃美輝。
帰国子女でかなりの美少女。成績優秀&運動神経抜群でなぜか5ヶ国語が話せるモテモテのスーパー女子中学生である。
いったい何をきっかけにこんな平凡な私と知り合ったのかはもう覚えてない。

「あ、鏡介からメールだ!」
「………相変わらずラブラブねあなた達」
「まあね〜」

送られてきたメールの主は私の恋人の中岡鏡介。
今日の夜家族で食事に行くから一緒に行かないかとのお誘いだった。

私の母はファッションデザイナーをしていて海外で仕事をしている事が多い。
そのため家では大体父さんと二人でいる…のだが。いかんせん、我々二人は料理が苦手だった。
そのため日々の夕飯や休日の食事などは家族ぐるみで仲の良い鏡介の家にお世話になる事が昔から多いのだ。
ち・な・み・に。私と鏡介の事は両家共々公認なのだ!

「何食べに行くんだろ〜。えへへ楽しみ」
「名前顔がヤバいわ」

デレッとした顔に美輝にデコピンを入れられたところで、廊下から数名の女子達の黄色い声が響いた。
そういえばテニス部レギュラー達が揃って廊下歩くとこんな感じになるっけなぁ。丁度運動部が朝練を終えて教室に入る時間だし、きっと彼らだろう。
前いつもより遅めに登校した日に朝練を終えた彼らが揃って移動している光景を見かけたが、やはりあんな感じの声が上がっていた。

「なんだろ、やっぱテニス部かなぁ」
「そうかもね。まあ興味ないけど」
「美輝ちゃまは大学生のイケメンとラブラブだものねー」
「ああ、そいつとはもう終わったわよ」
「ええ!?あんなイケメンだったのにもったいなー」

そう言うと美輝は頬杖をついてフー…と息を吐き窓の外を眺めながら言った。

「他に女が出来たんですって。……まあ私の恋愛は、始まりも終わりも大体相手からだから」

そう、彼女は来るもの拒まず去るもの追わず。
いつかの日に美輝が、今まで本気で好きになった人間はいないし、たぶんこれからもできないわ……って言ってたのを思い出した。
美輝みたいにパーフェクトな彼女なら自慢になるから、って理由で美輝と付き合う人間は少なくない。……彼女を好き勝手に利用する男達が、私は憎い。

「……なんだよもう今日はカラオケでも行くぞコノヤロー!」
「名前ちょっと五月蝿いんだけど。……ま、付き合ってやらなくもない」

私達二人が黄色い声への興味を失い再び談笑し始めたその時だった。

「苗字名前はいるか」

ガラッと大きな音をたてて開いた教室のドアから入ってきたのは、さっきの黄色い声達の原因と思われる人物の内の1人。
テニス部レギュラーの柳蓮二だった。

「やあ柳さんおはよう。どうしたの、私なんかになんの用?」

目が合った瞬間こちらに近づき私の横で立ち止まってこちらを見下ろす柳さんに問いかける。……きもーち棘を含めて。
しかし次に発する柳さんの言葉は私の嫌味なんかとは比べものにならないほど、与えるダメージの大きいものだった。

「自分の恋人に向かってなんの用、とは……冷たいんじゃないか、名前」
「………は?」

涼しい顔をしてとんでもない言葉をいってのける目の前の男を殴り倒したい衝動にかられたがなんとか抑え、見えているのかいないのかわからないその目を凝視する。

「昨日から俺達は恋人同士になっただろう」
「っ……お前ちょっとこい!」

唖然としてこちらを見つめるクラスメイト達を一瞥すると、自分の顔がサッと青くなるのが分かった。
私は瞬時に柳蓮二の腕を掴み、今は誰もいないであろう理科教室へと走った。






廊下にいた女子達からの痛いほどの視線をなんとか耐え抜き理科教室にたどり着いた。
ほんの少しだけ乱れた息を整え相変わらず涼しい顔をしている柳蓮二に詰め寄る。

「どうした、朝礼に遅れてしまうぞ」
「……一体なに、今の」
「なに、とは?」
「一体いつ誰と誰が恋人同士になったって?」
「なんだ、それじゃ不満か?」
「不満って何不満って!いや確かに不満なら溢れるほどあるけども!なんなの嫌がらせのつもり!?」

人差し指を私よりもいくぶん高い位置にある柳蓮二の顔に突き付けると、彼は1拍おいて口を開いた。

「…昨日の事を周囲にバラされると俺の評判は落ちテニス部の名にも泥を塗る事になる」
「………だから口止め料として俺がお前の恋人になってやる……って事?」
「ああそうだ」

柳蓮二はそう言うと、だがまあ………と言葉を繋げた。

「だがまあ………お前が柳蓮二は女子を傷つける最低最悪な人間だと周囲に公言したところで、それを信じる人間は少ないだろう。これは念のための処置にすぎない」
「ふざけんなよおいこらてめぇ」

拳をちらつかせて女子にしては汚い言葉を吐く。すると彼は顔の前にあげられた私の拳をゆっくりと下におろしながらこう言った。

「……それから、お前は仮にも俺の恋人になるんだ。その言葉使いは直してもらおうか」
「恋人とかいんないそんなの!そんなのしてもらわなくっても昨日の事は誰にも言わないしさ」
「嘘だ」
「嘘じゃないって!てかあたし恋人いるし」
「嘘をつくな」

ピキッと顔の筋肉がひきつるのが自分でも分かった。握った拳が怒りで震えるがこれをこいつにぶつける訳には行かない。
いや私的には何の問題もないのだが暴力沙汰は親からしたら面倒だろうしこいつのファン達も黙っていないだろう。
……とにかく、

「とにかく、私に関わらないで」
「……ほう」
「それじゃ」

彼らのようないかにも"人気者"という奴らが、私は大嫌いだ。

──私が理科教室を出て自分の教室に着いたのは、朝礼開始のチャイムがなった数分後の事だった。
そして私は、教室に戻る際に通りすぎたいくつかの教室、そして戻った自分の教室で自分を睨む複数の視線があった事に、この時はまだ気づいていなかった。



「苗字名前………調子にのらないでよね」




恋人宣言
(マジ意味不明なんだけど)
(なかなか面白い奴だ)



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