カラーノイズ | ナノ


妙な夢を見た。真っ黒な空間の中に見慣れたわたしの家のテーブルがあって、そこにわたしと向かい合って座る卓がいて。そうして目の前に置かれたどんぶりいっぱいに盛られたイクラを食わされる夢。わたしは夢の中で果たしてこれはイクラ丼で下にご飯も入っているのかそれは酢飯なのか酢飯じゃないのかはたまたご飯など入ってなくてイクラのみでただのイクラ盛りなのかとかよく分からない事を考えていて、そして卓に食えと怒鳴られるのだ。訳も分からず添えられたスプーンで山盛り真っ赤なイクラを口に運ぶとそれはぷちゅっぷちゅっと口の中で弾けて生臭さが広がって何故だか生暖かくて、そしたらそれが卓の目玉だったという。その瞬間目が冷めてトイレに駆け込んで嘔吐した。口の中にはあのリアルな感触が残っているような気がして、それを思い出しては延々と吐き続けた。昨日の夜食べた冷凍のピザらしき物が嘔吐物に混じって便器の中に浮いているのを見てまた吐いた。吐いて吐いて最終的に黄色っぽい胃液だけになって来て胃の中の物を全部出したことを知る。吐き気は収まり案外すっきりした。口の中はまだ胃液の匂いが残っていて非常に気持ち悪い。よたよたと重い足どりでキッチンに向かい蛇口をひね?と透明の水道水が勢い良く直線に落ちてゆく。冷たいそれを両手ですくって口に含んで出す。銀色のシンクには歪んだやつれたわたしがわたしを見ていた。それはそれは最高にブスで笑えた。耳の向こうで携帯のバイブレートの音が響いていて永遠に鳴りやまないそれはきっと多分卓からなのだけれど面倒臭いからほっておくことにする。そういえば卓の目玉はちゃんとついているのか。ついてないかもしれないわたしが噛み砕いちゃったんだった。なんてことを想像したらなんだか笑えた。ベッドの側の重いカーテンを開けるとそこからは眩しい光が一気に溢れ出して来て部屋の薄暗さをあっという間に飲み込む。馬鹿みたいな眩しさにわたしはろくに目が開けられない。うっすらと辛うじて開いた睫毛と睫毛の隙間から捕らえたカーテンの向こう側は澄んだライトブルーが広がっている。阿呆みたいに綺麗だ。わたしは生きている。今日もこうして一日が始まろうとしている。夢の中で彼の目玉を食って、それが気持ち悪くて吐いて、胃の中は空っぽで、水道水は少しだけカルキの匂いがして、電話がひたすら鳴っていて、わたしは一人で失笑して、それでもわたしは呼吸をしている。今こうして酸素を吸って二酸化炭素を排出して?る。わたしは今日も生きている。わたしは今日も生かされている。わたしは無意識のうちにひたすら鳴り続ける携帯を拾いあげて通話ボタンを押していた。耳元で彼の声がして何故だかそれがひどくくすぐったいと思う。わたしの世界は恐ろしいくらい今日も平和なのだ。




(20081119) title:不在証明


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