曽根崎心中 : 近松門左衛門
古典名作選・現代語訳付 1 新注絵入 曽根崎心中 [編者;松平進/和泉書院]
1998/4/30 初版

ああ、そのまま笠は着ていなさい。今日の客は田舎の人で、三十三番の観音様を巡拝して、この生玉で晩まで酒を飲もうと贅沢な話で、今は物真似を聞きについそこまで。戻って来て見られるとややこしい。駕籠かきの人も皆知っている人、やっぱり笠は着ていて下さい。それはそれとして、この頃は何の音沙汰して下さらない。気がかりだけれど、お家の内の事情を知らないから便りもできない。丹波屋まではお百度踏むほど尋ねてやったが、あそこへも来ないという。ええと、誰だったか。そうそう座頭の大市の友達衆に聞いたら、在所へ行かれたと言うけれど、まるで本当とは思えない。ほんにあんまりな仕打。私はどうなろうと聞きたくもないのですか。あなたはそれで済みましょう。私は病気になります。この気持嘘と思うなら、この胸のつかえを見て下さい。」と男の手をとって自分の懐の内へ引き入れ、恨んで口説き泣く姿は、本当の夫婦と変わりはない。

[78項 16行 7字-79項 13行 16字]

*丁移りを示す( )の記号は引用するにあたって省きました。例:(1オ)

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