空色のマーチ





「いい天気ね…」

雲ひとつない青空に紋章の入った右手をかざして笑顔を向けると、心地良い風がルーシィの金髪を揺らした。
今朝はレビィが日直のため、一人で登校している。
早めに出たことで時間にも余裕があった。少し遠回りになるが、天気も良いことだし寄り道をしていこうと考えて、歩を進めて行く。
普段通っている道から外れて車の通りが激しい場所に出た。
足を止めて左右を確認していると、突然頭に重みを感じたルーシィは恐る恐るそれに向かって右手を伸ばすと、

「ルーシィ、おはよー!」
「えっハッピー!?おはよう」

触れようとしていた一瞬、聞き慣れた声が耳に届いたことでその手を下ろす。

「…あれ、ナツは?」

周りを見回しても、特徴のある彼が見当たらない。忙しく行き交う歩行者と自転車が目の前を通り抜けていく。

「ナツは忘れ物を取りに戻ったんだ!」
「忘れ物…?」
「うん、なんかグレイに使うものみたい」
「…また、なにか企んでるわね」

大きな溜め息を吐くルーシィを覗き込むようにして、ハッピーの小さな前足が彼女の前髪に触れた。
ルーシィはそれが擽ったいのか両目を細める。すると、今度は後ろに体重をかけられたことでバランスを崩しそうになった。

「わっ、ちょっと…」
「ナツ!早かったね」

後ろを振り向くと、膝に両手を置いて俯く桜色の頭が視界に入る。軽い息遣いが聞こえてきた。
ナツは上着の袖を捲りながら、

「おう!朝から良い運動したぞ」

車の騒音に負けないくらい元気な声を響かせた。彼はマフラーの位置を直してから、前を向き笑顔を見せる。

「ルーシィ、おはよう!」
「…お、おはよう」
「おまえ、いつもこっちから来てんのか?」
「ううん、今日は偶々よ!」
「ふーん、オレらはこっちから行くと近道なんだ。なっ、ハッピー!」
「あい!」

ルーシィの頭に乗っている青い猫は、彼女が動く度に楽しそうな声を出して金髪を弄っている。
青い色のリボンを掴んで放すと、束になっている髪が跳ねた。

「もう、ハッピー…あたしじゃなくてナツの頭に乗りなさいよー!」

髪乱れるでしょ、と機嫌の悪いルーシィにも動じない。その髪に顔を埋めていると、彼女の両手が近付いてきたことに気付く。
それを上手くかわして、桜色の髪へと移った。

「ナツー、ルーシィの髪、やわらかくて良いにおいがするよー!」
「へえ、そーなんか?」
「ちょ、…ナツ!?」
「なんだよ?」

ナツは当たり前のように、手を伸ばしてくる。それから逃れようと身を捩ると、

「ルーシィ!危ないっ」
「…へっ?」

面白そうに笑っていたハッピーが、慌てて叫んだ。
スピードの緩まない乗用車が、ルーシィの方に向かって走って来る。

「ルーシィ、伏せろっ――火竜の…咆哮ー!!!」

頭を抱えてその場にしゃがみ込んだルーシィは、ギュッと目を瞑った。
叫ぶ声と同時にナツは口から炎を放つと、車体にその炎が当たり速度が落ちてくる。
ブレーキを掛ける音と周囲から聞こえてくる悲鳴が、ルーシィの耳に届く。
小さく縮こまった彼女は目を開けると、目の前で車が向きを変えて停まっていた。
それにホッとしてペタリと座り込んだ拍子に、上着のポケットから顔を覗かせていたものが音を立てずに飛び出るが、ルーシィはそのことに気付かなかった。
足元にあるカバンだけを手にして立ち上がると、翼を広げて飛んでくるハッピーと共にナツが側に寄ってくる。

「ルーシィー!」
「大丈夫か?」
「う、うん…大丈夫よ」

二人と一匹が話しているところに、スーツ姿で50代くらいの男性が運転席から出てきた。焦りながら近づいてくる。

「急に飛び出てきたら危ないだろう!」
「…すみません」
「怪我はない?」
「…はい、大丈夫です」

ルーシィに向かって始めはキツく声を張り上げていたが、彼女に怪我がなかったことで安堵した男性は、車に傷を付けたナツに足を向けた。

「怪我がなかったのは良かったんだが…君、これはやり過ぎだろう?…直るかな」

フロント部分を手で擦りながら大きく溜め息を吐いた男性は、車内へ戻るとカバンから携帯を取り出して、ドアを開けたままどこかに電話を掛けている。
ルーシィは幸い怪我もなく大きな事故にはならなかったことにホッとしたが、相手の車に傷を付けてしまったため、ただでは済まないだろうと不安げな様子を見せていた。






ハッピーがルーシィの頭に乗っているシーンがお気に入りです^^


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