ルーシィは呆れた様子を見せながらも、彼らから目を逸らさなかった。すぐ横で風呂敷の中を漁っている青い猫に彼女は声を掛けると、丸い背中から紋章がチラリと見えた。

「ねえ、…煮干しあげるから止めてきなさいよ!」
「オイラ、そんなに安い男じゃないんだ」
「……」

風呂敷包みを背負い直して、

「オイラより、ルーシィが止めたら?」
「あたしが!?」
「ルーシィならできるよ!」
「…アンタ調子いいわね」

ハッピーは笑顔を向けて、応援しているような素振りを見せている。面白がっているように感じたが、ルーシィは顔を上げて視線を移した。
じーっと彼女を見上げる青い猫は、楽しそうに尻尾を揺らしている。

「がんばれー、ルーシィ!」
「よーし、見てなさいよー!」

紋章が入っている手を動かして、腰に巻きつけている鍵ケースに触れた。鍵を握る指に魔力を込める。
桜色の頭が目立つのかルーシィは何気なく彼の視線を辿っていると、

「……ん?」

握り締めている鍵を下ろしながら、首を傾げた。

――ほんの一瞬、ナツが見ていた先にあったもの。

問題児たちから逃れるように壁側へ寄り、傍観している女子。あれほど毛嫌いしている彼だからこそ、ルーシィは疑問符を浮かべている。
いつの間にかルーシィの足元に来ていたハッピーが、彼女の視線を追って口を開いた。

「どーしたの、ルーシィ?」
「…うん、ちょっと」
「ナツ、機嫌悪そうだねー…壁、これ以上壊れなきゃいいけど」

ナツはグレイや他の生徒たちと乱闘中でも、周りの様子を視界に捉えることができる。視力も発達していて、視野の広いナツには容易いことであった。
しかし、それが逆効果になりツリ目の彼が普段に増して睨むと、巻き込まれている者は肩を震わせていた。

体育館に向かって聞こえてくる足音が、段々と近付いてくる。急な呼び出しを受けていた教師が戻ってきたのだった。
それにより、実践授業とは言えない激しい戦いも終止符を打つ。だが、暴れ足りないのであろうか、ナツは懲りずに今度はルーシィと口喧嘩を始めた。

その原因を振り返ると――、

自業自得ではあるが、身体中に傷を付けて肩で息をするふたりを、ルーシィは近くで見ていた。その一人の口から零れた、ある言葉が耳に入る。

「やっぱ女って面白くねえ。喧嘩弱ぇし、」

彼が女子に対して感じることを再び聞き逃さなかったルーシィは、心の中で“ああ…だからさっき、見てたのね”と強く頷いた。
ナツの相棒に言われたことも理由の一つであったが、怪我を承知の上で危険な場所に飛び込もうとした彼女は、今度こそ負けるものかと眉を吊り上げる。
睨むナツの元へ近寄り、気付いた時には突っ掛かっていた。

「魔法使えばそんなの関係ないでしょ!」
「へえ?やってみっか?」

ナツは片目を細めて、ニヤっと笑っている。どうせ弱ぇくせに、とでも言われたようで、ルーシィの闘志に火が点いた。
腰に巻きつけている鍵束の中から金色の鍵を取り出して、それを彼の方へ向ける。真剣な瞳を見せて、大きく叫んだ。

「開け、金牛宮の扉…タウロス!!」
「MOォー!!!」
「へ…ちょっ、なんだよ!そのマッチョ牛!?」

ルーシィは鍵を使って星霊界の門を開き、契約をした星霊を呼び出して共に戦う星霊魔導士である。
大きな斧を抱えているのが契約をしている星霊の一人。猛獣のような問題児の相手には十分、力のある星霊だ。
ナツは目を丸くしていたが、召喚された星霊が斧を振り上げると彼の瞳が途端に変わり、すぐさま対抗するように身構えた。
黒いリストバンドの左手にグッと魔力が込められて、ナツは火竜の…と叫ぼうとした瞬間、

「ちょっと、二人ともダメだよ!!」

争う前に駆け寄ってきていたレビィが、魔法を使って“STOP”をかける。
斧を握りしめた星霊と炎を向けているナツを、すんでの所で止めることができた。
レビィはホッとしたのか胸に手を置き、深く息を吐いている。
彼女の魔法は、文字を立体化させてその文字の意味を持たせることができるのだ。“FIRE”を使うと、炎を出すことも可能である。

ルーシィとレビィは、ナツやグレイとはまた違った魔法を扱う魔導士だった。

ルーシィの声を合図にして、星霊が消える。彼女は胸の前で腕を組み、大きな瞳を向けてきた。
ナツは口を尖らせて大きく揺らいだ炎を握り消したが、初めてみる彼女の魔法と星霊に興味があるのか、力比べができずに不満げな様子を見せている。
そんな二人の方に、上半身裸の男が近付いてきていた。

「ナツはともかく、ルーシィ、お前な」
「わあ!?」
「あ?なんだよ、ハッピー」

突然、声が聞こえてそちらに視線を落とすと、口元に前足をあてて見上げてくる青い猫が、強烈なセリフを言い放つ。

「グレイ居たんだ、オイラ忘れてたよ」
「おい……」

彼は、ひくりと頬を引き攣らせた。その反応にハッピーは笑いを堪えている。

グレイとハッピーの近くで、ナツとルーシィは冷めやらぬ闘志を瞳に宿して睨み合う。ムスッとして睨んでくるナツを見上げるルーシィは、彼に対して頬をぷくっと膨らませていた。どちらも引かない。
冷静なレビィは、こちらを見ている教師の視線を痛いくらいに感じて、冷や汗をかいていた。


授業終了のチャイムが鳴り、教室へ戻る途中でルーシィの口が開く。

「レビィちゃん、ごめんね。あたし、ついムキになっちゃって…」
「ううん、ルーちゃんの気持ちもわかるよ」
「…ありがとう。あーもう、悔しいー!」

ナツと一緒に叱られたルーシィは、彼とのやり取りを思い出すと悔しさが増してきた。楽しみにしていた実践授業が、喧嘩で幕を閉じる。
この騒ぎが原因で、ルーシィは教師に目を付けられるようになってしまった。






ナツとルーシィの対戦シーンは、すごく新鮮でした!二人の魔法で喧嘩妄想、面白かったです。
戦闘シーンと言えるほどの描写はしていませんが、こちらを書いている時はサントラの“メインテーマ”を聴いて、気分を高めてましたね!「燃えてきたー!!」って感じです^^


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