不幸せな夜 



※現パロ
幼馴染みな春芽



繋いだ手はやけに冷たかった。薄暗い部屋の中に射し込む微かな月の光が彼女の白い輪郭をぼんやりと浮き上がらせる。

「…手、冷たい」
「そう?しゅんちゃんの手は温かいね」

彼女はそう言って静かに笑う。俺は少しだけ不安になって、小さな掌を握る手に力を込めた。彼女がじっと俺を見つめる。俺も彼女を見つめた。

「…私達、大人だったら良かったのにね」

仄かな月光は、俺達を隠してはくれない。鼈甲のように美しい彼女の瞳が、やけに光って見えた。

「…俺が大人だったら、君をこのまま連れて行けるのに、」

呟いた言葉は、夜の中に静かに吸い込まれていく。空いている手で彼女の頬に触れると、彼女は少しだけ笑った。
俺達は無力で何もできない。世界を変えることなんてできやしない。真っ暗で途方もない夜の闇に呑み込まれないように、互いの手を握ることしかできなかった。

「ねえ、ふたりでどこかに逃げようよ」
「どこに?」
「わかんない。ここじゃないどこか遠い場所。しゅんちゃんと私しかいない世界」
「そうだね、一緒に逃げようか」
「本当?約束してくれる?」
「うん、約束する」

世界で一番頼りない約束に俺と彼女は顔を見合わせて笑った。だけど、こんな約束を交わす以外に、俺と彼女を繋ぎ止める方法がわからなかった。

明日になれば、彼女はもう俺の隣にいない。
この町から去って、もう帰ってはこないのだ。
大人にも子供にもなれやしない俺達は過去を惜しむことも未来に希望を抱くことさえもできなかった。

「…しゅんちゃん、私待ってるよ。だから、迎えに来てね」

真剣な光をその瞳に宿して、彼女は俺をじっと見つめた。
ねえ、お月様よ。今だけはどうか俺達を照らさないでくれ。罰なら俺ひとりで十分だろう。だから、どうか、今だけは。

「…ずっと、待ってるから」

呟いた彼女の言葉がどうしようもないくらい悲しく思えて、俺は思わずその華奢な身体を抱き寄せた。
全身で感じるいとおしい体温と心臓の鼓動が、迫り来る終わりをより一層感じさせた。
ああ、もうすぐ世界は終焉を迎える。



(ふしあわせなよるにとけてしまいたい、)






なんだかよくわからないけど引き離される幼馴染み春芽。
 
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