午前四時、君の首を締めた 


※色々注意
紳士的な鴎外さんなんてどこにも存在しない。鴎外さんが病んでる。






どう、して。

「やあ、芽衣。やっと会えたね」

そう言って目の前で微笑む彼の姿は、あの頃と何一つ変わっていなかった。天道の下で輝く赤毛も、柔らかな光をたたえた黄金色の瞳も、どこまでも穏やかに笑うその表情も何も変わっていない。
どうして、と私は小さく呟いて後ずさった。
どうして、どうして。どうして、この人が此処にいるの。ねえ、どうして。

「会えて嬉しいよ、芽衣」
「……どうして、貴方がここにいるんですか、」
「どうして、だと?はは、愚問だなあ」

彼は可笑しそうに笑うと、一歩足を踏み出して私との距離を詰めてきた。それから、また一歩、二歩。ゆっくりと彼は歩む。情けないことに私は、そこから動くことなどできなかった。

「僕はおまえが好きなんだよ。だから、会いに来た。ずっと、待っていたんだよ」

彼との距離はほとんど存在しなかった。私の顔を覗き込んで笑う彼は、相変わらず美しく、恐ろしかった。

「僕の愛しい子リス、怯えなくてもいい。これは然るべき運命なのだ」
「……そんなの、嘘です。だって、貴方は、あの時代に、」
「うん?そうだな、たしかに『森鴎外』はあの時代の人間だ。…でも、芽衣。考えてごらん?おまえはこの時代から僕がかつて生きていた明治の世にやって来たのだ。そんな有り得ないことが起こるのならば、今こうして僕の魂がこの時代に存在することだって何一つ可笑しくないはずだろう?」

なあ、芽衣?そう笑いながら、彼の指が私の髪をそっと撫でた。いとおしそうに私を見つめるその瞳がすぐ傍にあることに、私は絶望を感じた。

「なあ、芽衣。僕から逃げられるとでも思ったのかい?ははは、愚かな子リスだ。僕から逃げられるわけなんてないのにね。ああ、愚かで愛しい子リス」

するり、と頬を撫でられる。記憶の中のあの人と同じように笑う彼は、彼の瞳には、やはり柔らかな黄金色の光が、ある。
ねえ、私はこの瞳が恐ろしかったのです。あまりにも私に優しく触れる指先が恐ろしかったのです。少しずつ、変わっていく貴方が恐ろしかったのです。私に異常なまでに執着してあの場所に縛り付けようとする貴方が恐ろしかったのです。貴方と過ごした優しい日々が、恐ろしい記憶へと緩やかに朽ちていくことが恐ろしかったのです。だから、私はあの場所から、貴方から逃げたというのに。

「捕まえたよ、芽衣」

黄金の両目が私を捕らえる。触れる指先は相変わらず優しくて、少しだけ泣きたくなった。

ああ、もう、逃げられない。








一応、明治時代で死んだ鴎外さんが芽衣に執着して転生しちゃった話。
芽衣が明治にいた頃は鴎芽フラグが立っていたけど、鴎外さんの異常さに芽衣が「あれ、なんかこいつおかしい」とか思ったりして平成に逃げ帰っちゃう。それで鴎外さんがストーk…………転生してまで芽衣を追ってきたそんな裏設定。本人はいたって本気なのが恐いところ。
 
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