「…太った、かも」
ぷにぷにと腹の肉をつつきながら私は呟いた。
ああ、なんてこった。
でも、心当たりはあり過ぎる。
昨日のお昼は鴎外さんに牛鍋に連れて行ってもらったし、それ以外にも普段からあんパンやら饅頭やら今川焼やらあいすくりんやら何やら食べまくっていれば、それに比例してお肉だって付くだろう。
だけど、だけど、これはやばい。
「……ダイエットしよう」
肉を摘まんで溜め息を吐き出して、私はそう決心したのだ。
「で、何?俺に減量の手伝いをしろ、と?」
「お願いです、春草さん。何か良い方法は無いですか?」
頼み込む私に、眉間に皺を寄せてあからさまに面倒臭そうな顔をする春草さん。
「…大体、なんで俺なの?」
「だって春草さんって男の人なのに細いじゃないですか」
「別に好きで細いわけじゃない」
むっとした表情の彼に構わず、私は言葉を続ける。
「春草さん!お願いです!」
「嫌だ。俺は関係無いよ。というか、まずその大食いをなんとかすればいいんじゃないの?」
「これは体質です。無理です。お腹が空くんです」
「……大体、君は間食が多いんだよ」
「だって、美味しいんですもん……」
「まず、その弱い意思からなんとかしなきゃ絶対に痩せれないと思うけど」
春草さんの容赦ない一言に、私はうう、と言葉に詰まる。
確かに、春草さんの言う通りだ。
ぐうの音が出ないとはまさにこのことか。
「…やっぱり、そうですよね……」
「………別に、そのままでもいいんじゃないの?そこまで太ってないと思うけど」
「いいえ!春草さん気を遣わないでください。腹回りのお肉がすごいんです」
「…別に、普通じゃない?」
「…それに、このままじゃ鴎外さんに笑われてしまうかもしれないじゃないですか。子リスちゃんじゃなくて、本当に子豚ちゃんって呼ばれるかも…」
「いや、いくら鴎外さんでもそんなこと……無いとは言い切れないけど」
はあ、と溜め息を吐く。
切実に、太らない体質を手にいれたい。
どうして食べたら食べた分だけこんなにも太ってしまうのだろうか。
私はただ、食べることが大好きなだけなのに。
あ、だから太るのか。
「…別に、鴎外さんは君が太ろうが、力士のような体型になろうとも君のことが好きだと思うけど」
「力士にはなりたくないです」
「まあ、それは一つの例えだとして。君が太っても太ってなくても、鴎外さんは君だから好きになったんだよ」
「春草さん……」
「でも、だからって食べ過ぎは良くn」
「春草さん、私決めました!」
「…………何?」
「やっぱり、無理は良くないですよね!そのままが一番ですよね!この間フミさんからいただいたお菓子食べてきます!」
「え、ちょ、」
「ありがとうございました!」
「」
そうだ、我慢は良くない!
私は食べることが好きなんだから、自分に素直に生きよう!
心の中で春草さんにお礼を言いながら、私は私を待っているお菓子のもとへ駆け出した。
「………ねえ、最近食べ過ぎじゃないの?食べ物を見ている時の君の瞳が恐ろしくて、昨晩俺の夢に出てきたんだけど」
「そうですか?」
「そうだよ。鴎外さんも何とか言ってください」
「はっはっは、春草。よく食べるのは良いことだよ。ほら、芽衣。この饅頭も食べなさい」
「わあ!ありがとうございます、鴎外さん」
「………………(もうだめだこいつら)」
▼ 春 草 は ば か っ ぷ る に あ き れ た !