心臓がいくつあっても足りません! 



「藤田さんの髪って綺麗ですね」

唐突に彼女の唇から紡がれた言葉に目を何度か瞬かせる。
あまりにも突然過ぎる言葉に俺は何と返せばいいのやら、言葉に含まれた真意は何なのかわからず、目の前の女を見つめ返した。

「…おい、それはどういう意味だ」
「え?そのままの意味ですよ?長くて艶があって綺麗だなあ、って思って」
「………綺麗って………」

俺は苦々しげな感情と共に、眉をひそめる。
女でもあるまいし、髪が綺麗と言われて喜ぶ男なんているのだろうか。
彼女の様子からはただ純粋に思ったことを口にしただけなのかもしれないが、だからこそ反応に困る。

「…あ」
「……なんだ」
「すみません、もしかして気を悪くしてしまいましたか?あの、別に悪意とかは全然なくて」

顔をしかめたまま、考え込む俺に彼女は俺が怒っているとでも考えたのかそう言った。

「…別に、不快な気分にはなっていない」
「ほ、本当ですか?」
「こんなことで嘘を言ってどうする」

呆れたようにそう返せば、彼女は「そうですよね」とへにゃりと笑った。

「…でも、本当に綺麗な髪の毛ですよね」
「……おまえは変わった女だな」
「え?」
「大体、髪を綺麗だと言われて男が喜ぶと思うか?」
「そ、そうですよね……。すみません……」

眉を下げて項垂れると同時に、さらりと彼女の薄い肩から細い髪が流れ落ちた。

「…それに、おまえの方が綺麗な髪をしていると思うが」

それを一房指で掬うと、彼女は弾かれたように顔を上げた。
心なしか、顔が少し赤い。

「ふ、藤田さん、」
「…おい、顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか」
「そ、そんなこと……」
「小泉は何をやっている。保護者のつもりなら体調管理くらいしっかりさせろと伝えておけ」

小さな舌打ちと共にそう言えば、彼女は首を振って違うんです、と繰り返した。

「あの、八雲さんは悪くないんです。私が、」
「おい、もういい。今日は帰れ。送っててやる」
「えっ、だ、大丈夫です!ご心配なさらず!」

赤い顔のままそう叫んで、彼女は脱兎の如く走り去って行った。

「…一体、なんなんだ…?」

その後ろ姿を見つめながら、俺は呟く。
相変わらず、変わった娘だ。

「…まあ、退屈はしないが」


(おかえりなさい。…ん?少し顔が赤いようですがどうされました?)
(べべべ別に何でもないです!)
(もしかして藤田サンに何かされましたか!?)
(っ!!!ふ、藤田さんとは何も無いですっ!!!)





藤田さんは天然で芽衣をときめかせると思う。
藤→←←芽くらいが個人的にはたまりません。
 
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