※色々注意、病んでる
鴎外さんの抱える孤独はきっとどこまでも深くて、私はきっとその深淵に触れることは一生できないのだろう。
「…どうして、僕なのだろうか」
ぽつりと呟いた鴎外さんの顔には、いつものような柔和な笑みは浮かんでなく、ただの無、何の感情ものせていない無表情がそこにはあった。
私は何も彼に言うことができなくて、きっと彼も私の浅い言葉などに微塵も期待はしていないのだろうけれど、その黄金色の綺麗な二つの目で私の顔をじっと見つめた。
「なあ、何故僕なんだ?」
彼の瞳は何も語らずに、ただ濁った暗い色を宿していた。
私は、鴎外さんのこんな表情をたった一度も見たことはない。
それ故に私は、その無感情で無感動で無色のその表情に、一種の嫌悪感と恐怖、薄気味悪さを覚えたのだ。
彼はどこまでも気高い人だった。
周囲の期待に応えて、そして羨望と嫉妬と憎悪に耐えて、それでも彼は決して微笑と努力を絶やすことはなかった。
だから、私も、私以外の人々も、彼のその苦痛もわからずに、その血の滲むような努力さえ、「当たり前」のことだと踏みにじったのだ。
「何故、僕ばかりがこんなに苦しまないといけない?何故、僕ばかりがこんなに辛いんだ?」
早口で捲し立てる姿は、あまりにも痛々しくて、悲しい。
「……誰か、たすけてくれ、」
私の目に映る鴎外さんは、何でも器用にこなして、余裕で、美しい人だった。
だけど、彼も人間なのだ。
常人よりも遥かに優れた才能を持っていたって、鴎外さんだって私達と何一つ変わらない人間だというのに。
私達が、彼の心を壊したのだ。
私は何も言わずに、何も言えずに、ただ鴎外さんの震える身体に手を伸ばした。
私はきっと、この目の前の人に何もできやしない。
彼を救うことなどできやしない。
「……鴎外さん、」
ならば、私はこの美しい人と一緒にどこまでも堕ちていこう。
(Aliis si licet, tibi non licet.)
(だから、私は罪を贖い続ける)