君の傍にいられるだけで良かった。
君が笑う顔が大好きだった。
君の声が大好きだった。
君が大好きだった。
僕は、君の傍にいられるだけで、君が幸せならそれだけで、それだけで幸せだった。
「チャーリーさんが、好きなの」
彼女の声が鼓膜を揺さぶる。
僕の腕を掴む小さな手は微かに震えていた。
蜂蜜色の瞳からぽろぽろと絶え間無く綺麗な綺麗な涙を流す彼女がひどくいとおしかった。
「芽衣ちゃん、」
「傍にいてよ、チャーリーさん、」
彼女の言葉に僕は首を横に振るう。
そっと、艶やかな髪を指先で撫でた。
「それは、できないよ」
静かにそう告げれば彼女の顔が悲痛に歪む。
頬を濡らすその涙が、痛々しい。
「どうして、」
「ごめん。ごめんね、芽衣ちゃん。君が、好きだから、」
「好きなら、私の傍にいてよ」
「ごめんね」
「私は、チャーリーさんの傍にいたいよ」
ああ、と思う。
僕は彼女を愛しているのだ。
彼女の言葉が、表情が、僕の心を揺れ動かす。
彼女の瞳から零れ落ちる涙を掬って、そっと頬に手を添える。
「僕は、君を幸せにできない」
朝日が昇れば彼女を独り残して、太陽の無い世界でしか生きることのできない物怪が、こんなにも美しい彼女を愛していいはずがない。
僕が、彼女を幸せにできるわけない。
彼女には幸せになってほしい。
優しい人と結ばれて、穏やかに暮らしてほしい。
そのためなら、僕は君の傍にいられなくたっていい。
「…芽衣ちゃん、ちゃんと幸せになってね」
ああ、夜が明ける。
太陽が少しずつ、顔を出す。
僕の身体がゆっくりと消えていく。
「チャーリーさん、」
「じゃあね、芽衣ちゃん」
君は幸せになるんだよ。
(私の幸せは貴方の傍にあるというのに、)