その炎に身を灼かれても 



たとえば私は、私の頭を撫でる音二郎さんの仕草に苛つくのだ。

音二郎さんは優しい。
喧嘩になった時も、何だかんだ言いつつ最終的には音二郎さんが折れてくれる。
音二郎さんはいつも私の我が儘をきいてしまうのだ。音二郎さんは私にとても甘いと思う。

音二郎さんは綺麗な人だ。
芸者の恰好をしている時は女の私でも見惚れてしまうほど艶やかだし、男の恰好をしていたって音二郎さんは美しい。
だから、音二郎さんが女の人から想いを寄せられることが多いことも勿論知っている。

音二郎さんが私のことを愛してくれていることは、ちゃんとわかっている。
だけど、私は音二郎さんのちょっとした仕草に苛ついてしまうのだ。
私の頭を撫でたり、私を抱きしめて甘い言葉を吐いたり、とか。
頭を撫でられるのは子供扱いされているようで(実際に子供だけども)、甘い言葉を囁かれるのは音二郎さんはそういう言葉を口にするのが慣れているようで、嫌だ。
別に、音二郎さんの過去の恋愛事情に私が口出しする権利なんて無いし、詮索するつもりも無い。
これだけ優しくて綺麗な人だから、過去に何人か恋人くらいいただろう。
キスをする時だって私はいつも精一杯なのに、音二郎さんは余裕で。
そんな時にも、私は音二郎さんの過去の経験や女の人の影を見つけてしまい、すごく、苛々する。
私を抱きしめる腕だって私にキスをするその唇も愛を囁くその声も、全部全部、私以外の女の人のために使っていたとか。
すごく、すごく、苛つく。
だからーー、



「…それってつまり、嫉妬か?」
「………え?」
「おまえは本当に可愛い奴だなあ。安心しろ。別におまえのことを子供扱いしてるわけじゃねえよ」
「…でも、」
「……まあ、過去の恋愛についてはおまえの言う通りだが、愛してるとかそんなこっぱずかしいこと言えるのは、おまえだけだよ」
「…………」
「…それに、子供扱いしてるわけじゃなくておまえのことを大切にしたいんだよ。
おまえに口付けをする時だって余裕なんて少しも無いし、」
「そんなの、嘘です…!」
「ばーか。おまえのことを一人の女として見てるから余裕無いんだろうが」
「………音二郎さんって恥ずかしい人ですよね…」
「…誰がこんな恥ずかしいこと言わせてると思ってんだ」
 
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