それが罪だろうと罰だろうと僕はただ君を愛していた 



俺は、ただ彼女を愛していた。



月明かりに照らされた滑らかな頬をゆっくりと撫でる。
それから微かに震える長い睫毛、小さな鼻、赤い唇へと指を滑らせた。

「…春草さん、くすぐったいです」
「……いいから、じっとして」

目の前の愛しい人の姿を網膜に焼き付けようと、何度も何度もその白い皮膚に触れる。
彼女はくすぐったいと言う割には大人しく、俺にされるがままだった。

「……俺は、あとどれくらい君の姿を見ていられるのかな」

小さく呟いた言葉に芽衣は僅かに表情を曇らせた。
それを見て、心臓がぎゅっと痛くなる。

「…怖いんだ。俺の目が何も映さなくなって、絵が描けなくなって、君を見つめることだってできなくなって、」
「春草さん、」
「そう思うと、怖くて、怖くて、」

我ながら情けないと思う。
それでも、怖くて仕方無かった。
もしも目が見えなくなったら。
もしも絵が描けなくなったら。
もしも芽衣を見つめることができなくなったら。

「…春草さん、それでも私は此処にいますから」

彼女が言った。
真っ直ぐに俺の目を見つめて、蜂蜜色の瞳を向けて、彼女は言った。

「私は、春草さんの傍にずっといます」

そう言って、少し泣きそうな顔で彼女は微笑んだ。

その微笑みを見て、何だか俺は苦しくなって、それから嬉しくなって、たまらずに彼女のその華奢な身体を力の限り抱き締めた。
すると彼女も力いっぱい抱き締め返すから、俺は更に腕に力を込めた。

「…ごめん、芽衣。弱くて、ごめん」
「……私、春草さんの格好いいところも、弱いところも、全部が愛しいんです。だから、謝らないでください」

ああ、俺はこの腕の中にある温もりが、この世の何よりも愛おしい。

「…芽衣、大好きだ」
「私も大好きです、春草さん」

鼻の奥が痛くなって、目頭が熱くなった。
ああ、駄目だ。泣くな。泣くな。
少しでも長く、彼女を網膜に焼き付けなければ。

「…春草さん、泣いても良いんですよ?」

彼女の穏やかな声に涙腺は簡単に揺さぶられて、俺はその日声をあげて泣いた。
たぶん、彼女も泣いていたのだろう。
華奢な肩は小さく震えていた。




俺は、ただ彼女を愛していた。

この両目が光を失ったとしても、俺は彼女を愛し続けるし彼女も俺を愛し続けるのだろう。


そうして、俺はゆっくりと瞼を下ろした。
 
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