追憶 



俺にはかつて仲間がいた。

同じ志を持ち、同じ場所を目指して、共に戦ってきた。
立派な大義名分を掲げても俺達のやってきたことはただの人殺しで、民衆には随分と嫌われてきたが、それでも。
それでも俺は、彼等と過ごす日々がひどく居心地が良かったのだ。

時が流れて、この国から武士はいなくなった。
浅葱色の集団も消えた。
かつての仲間達は殆ど死んだ。
戦死、斬首、病気で皆死んでしまった。
俺は生き残ってしまった。
人殺しが、生き残ってしまった。





「五郎さん?」
「……む、」

目を開くと、心配そうな表情を浮かべた芽衣が俺を覗き込んでいた。

「…芽衣、」
「五郎さん、大丈夫ですか?随分とうなされていたようなので」

ゆっくりと身体を起こす。
どうやら俺は、夢を見ていたようだった。
かつての自分。俺がまだ『藤田五郎』ではなかった頃の話。

「五郎さん、」
「……大丈夫だ。おまえが心配することは何もない」

僅かに笑みを浮かべてそう言えば、芽衣も小さく笑った。

「ーーー」

その笑みを見た途端、不意に彼女のことを愛おしいと思う気持ちが溢れてきて、思わずその華奢な身体を抱き締めていた。

「ご、五郎さん?いきなりどうしたんですか?」
「何でもない。気にするな」
「気にするなって言われても…」

そう言いながらも、彼女はおとなしく俺に抱き締められている。
それが芽衣らしくて、愛しくて、俺はさらに強く彼女を抱き締めた。

「…今日の五郎さんは五郎さんらしくないですね」
「嫌か?」
「いいえ、そういうところも大好きです」




俺にはかつて仲間がいた。

同じ志を持ち、同じ場所を目指して、共に戦ってきた。
彼等は皆、死んでしまった。
俺だけが、生き残ってしまった。

だけど、今の俺には芽衣がいる。
愛しいと思う人が、隣で笑っている。
今は、それがたまらなく幸せなのだ。



「五郎さん、私、今すごく幸せです」
「奇遇だな。俺もすごく幸せだ」



(戦場の記憶も孤独も、全てはおまえに出逢うためのものだったのかもしれない)






藤田さん誕生日おめでとう!
 
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