地獄の中で愛し合う 



鴎外さんは時々、とても辛そうな顔をする。
私を抱きしめている時でも、私に口付けている時でも、鴎外さんは時折苦しそうな顔をするのだ。
彼にそんな顔をさせる原因を、私は知っている。

それは、罪悪感だ。



「……芽衣、」

瞼に、鼻の上に、唇にキスを落とされる。
私の肩に置かれたその手はひどく優しいものだった。

「…鴎外さん、好き、」

吐息と共にそう呟けば、鴎外さんは私の頬をするりと撫でた。

「ああ、僕も好きだよ。おまえが、愛おしい」

薄い唇が紡ぎ出す愛の言葉。
それと同時に僅かに歪む、鴎外さんの綺麗な顔。

ああ、貴方は気付いていないのでしょう。

鴎外さんが私を選んでくれたことも、本当に私を愛してくれていることだって、全部わかっている。
鴎外さんを苦しめている罪悪感の正体だって、わかっている。
鴎外さんの心の中にあの人がまだ存在していることだって、わかっている。

「……鴎外さん、」

私に触れる手が、唇が、体温が愛おしくて、それから苦しい。
愛されているはずなのに、愛されていない。

鴎外さんが辛そうな顔をするのは、あの人に対する罪悪感。
鴎外さんは未だに、悪夢から解放されていない。


「…芽衣、好きだよ」

貴方が見せる苦しそうな顔に、ずきずきと痛む私の胸。
私は、あの時選択肢を間違えてしまったのだろうか。
あの時、私が現代に帰っていれば鴎外さんがこんな表情をすることも無かったのかもしれない。
私が選んだ道の先にあるものが地獄だとしても、鴎外さんの悪夢の続き若しくは始まりだったとしても。

「…愛しています、鴎外さん」

私は自ら地獄を選ぶのだ。



(消えない罪悪感と、終わらない地獄の中で私達は互いを愛し合う)
 
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