あなたは私の酸素 




僕は千鶴ちゃんが好きだ。
たぶん、僕は彼女がいなければ死んでしまうだろう。これは過剰表現ではなくて、本気で。
千鶴ちゃんがいなくなった世界で生きていく方法なんて思い浮かばないから、もしも彼女が死んでしまったら僕は少しの躊躇もせずに後を追うだろう。
僕は、そのくらい千鶴ちゃんのことが好きなのだ。

でも、千鶴ちゃんはどうだろう。
たぶん、彼女は僕がいなくても生きていける。僕が思っている以上に彼女は強くないけど、決して弱い子でもない。そんなところが、好きなんだけどさ。
僕は千鶴ちゃんがいなきゃ死んじゃうのに、彼女はそうでないなんて不公平だと思う。けれど、それは仕方のないことだ。僕が弱くて、彼女は弱くない。それだけの違いだ。


「千鶴ちゃん、好きだよ」

そう言うと必ず、「私も好きですよ」と返してくれる彼女が僕は大好きだ。
柔らかい髪の毛も、華奢な肩も、優しい笑い声も、何もかもが好きだ。彼女の身体を流れる血液だって、彼女を構成する細胞のひとつひとつだって僕は愛しいと思う。(こんなこと言ったら気持ち悪いだろうから言わないけど)
千鶴ちゃんの傍にいると、時折、守りたいけど壊したいような、そんな矛盾した感情が僕を襲う。あーあ、本当に僕はおかしいな。僕が彼女を壊すことなんてできるわけないのにね。だって、僕は千鶴ちゃんがいなきゃ生きていけないから。

「……ねえ、キスしてもいい?」
「えっ、」

返事も聞かないで、唇を重ねる。一度だけじゃ足りなくて、二度、三度と繰り返し唇を押し当てる。柔らかな感触と、彼女の吐息に脳髄が痺れそうだった。
重ねる度に深くなる口付け。それでも、懸命に受け入れてくれる彼女が愛しい。

「…あの、いきなり、どうしたんですか?」
「嫌だった?」
「そんなことないですけど…」

唇を離すと、困ったような顔で、頬を染めて僕を見つめる千鶴ちゃん。可愛いなあ。
さらさらとした髪に指を絡ませると、彼女は少しくすぐったそうにしていたが、僕のされるがままだった。

「好きだよ」
「私も、好きですよ」
「千鶴ちゃんがいなくなったら、僕は生きていけないんだよ」

僕の言葉に、千鶴ちゃんはその大きな瞳を瞬かせる。
あーあ、また困らせたかな。好きなのに、どうして困らせてしまうのだろう。
僕がいなくても生きていける彼女はずるい。僕は常に千鶴ちゃんが必要で、いなくなることを思うだけで苦しいのに。

しばらく黙って僕を見つめていた彼女の小さな手が僕へと伸ばされる。それを拒む理由なんてないから、その手を受け入れると、両手で頬を包まれた。
そのまま、千鶴ちゃんの元へと引き寄せられる。

「だったら、ずっと傍にいてください」

そう言って、照れたように彼女は微笑んだ。
ーああ、もう、やっぱり千鶴ちゃんには敵わないなあ。
心の中で呟いて、僕はもう一度彼女にキスをした。


(あなたは私の酸素)

 
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