遺書 



※死ネタ





僕の好きな人、死んじゃいました。

流れ弾が偶然、本当に偶然彼女の左胸を貫いて、彼女は死んでしまったみたいです。あまりの運の悪さに、笑えてくるほどです。
思い返せば、彼女はいつも真っ直ぐでした。一言で言えば、馬鹿でした。誰に対しても何に対しても真っ直ぐ。そう、それは僕のような口も性格も悪い人間に対しても例外ではなかったようです。僕の暴言にも意地悪にも、彼女は泣いたり怒ったりしながらも、決して逃げ出すことはしなかったのです。遠ざけようとすればするほど、彼女はその愚直さを持って僕のもとへ近付くのです。僕はそんな彼女が鬱陶しく、しかしそれでも隣を許しても良いくらいには、彼女のことを想っていました。
僕は常日頃から彼女に、君は神経が図太いから後世までずっと長生きするだろうと、冗談を交えてそう言っていました。そうすると彼女も笑いながら、私はうんと長生きします、先に死んだりなんてしませんと返すのです。それは、僕が病を患ってからも同じでした。思えば彼女は僕が恐れているものを知っていたのかもしれません。残される恐怖と悲しみ。それは僕にとって、死病よりも恐ろしいものでした。だから、彼女は僕の恐れるものを取り除こうと、あの言葉を言ったんだと思います。
それなのに、彼女は僕より先に死んでしまいました。当の本人がこの世にいないんじゃあ、嘘つきだと言うことも叶わないのです。いつ死ぬかもわからない、痩せ細ったこの病人よりも先に、何の罪も無い彼女が死んでしまったのです。
こんなことになるのならば、僕は早いうちに彼女を自分から、新選組から引き離すべきだったのです。僕は、後悔しました。僕の我儘が彼女を死なせることとなったのです。傍にいてほしいと願った僕の我儘が、彼女の未来を奪ったのです。
彼女の死を知らされた時、近藤さん、貴方の時のように僕は土方さんに掴みかかる気も起きませんでした。土方さんのせいだと、彼を罵ることもできませんでした。全て、僕が悪いのです。
直接口にしたことは一度としてありませんが、僕は彼女を愛していました。彼女を愛していたが故に、僕は彼女を傍に置いて、結果、それが彼女を死なせたのです。鉛の玉に心臓を貫かれて、呆気なく逝ったのです。僕は、そんなものに彼女を奪われたのです。
笑える話です。あまりにも良くできた偶然に殺された彼女も、彼女を奪われた僕も、全部。
しかし、彼女のいない世界で僕は生きていく意味も価値もありません。病に侵されたこの身体なら尚更そうです。こうしてこれを書いている今も、咳は止まらず、口からも汚い血が赤い塊と共に吐き出されます。
近藤さん、僕は今から貴方のもとへいきます。其処には、皆いますか。彼女は、其処にいますか。どうせ放っておいても死ぬ身体ですが、僕は一秒でも早くそちらへいきたいのです。
では、ここら辺で失礼します。近藤さん、それでは後でお会いしましょう。




追伸
これを最初に読んだ貴方にお願いがあります。これは僕の尊敬する近藤さんに宛てた文でもあり、僕の遺書でもあります。もし読み終えたのなら、この文も、身体もどうか燃やして灰にしてください。それが僕の最後の願いです。

 
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