He only knows 





いつだって私は沖田先輩を見ると少し切なくて苦しい。
いつだったか、それを沖田先輩に伝えたら「どうしてなんだろうね」なんて嬉しそうに笑うものだから、私の胸は余計に苦しくなったのだ。



ある時、沖田先輩と一緒に帰った。
委員会で遅くなって慌てて外へ出ると、下駄箱で沖田先輩がスマートフォンをいじっていた。彼は私を見つけると、「千鶴ちゃん今帰り?奇遇だね、僕も今から帰ろうかなって思ってたんだ。よかったら一緒に帰らない?」なんて言って笑うのだ。そんな先輩の笑顔を見ると、やっぱり私の胸は苦しくなる。どうしてなのかな。

日が沈んで少し暗くなった道を二人で歩いていると、沖田先輩は「あー寒い」と、息を吐いて両手をこすった。私が「冷え性なんですか?」とたずねると彼は「そうだよ。ほら、冷たいでしょ」とひんやりとした大きな骨ばった掌で私の掌を包み込んだ。

沖田先輩に触れられた瞬間、先輩の掌は冷えているというのに、私の顔は熱くて、なんだか全身の血液が沸騰したみたいだった。
沖田先輩を見上げると、彼は満足そうな笑みを浮かべて「千鶴ちゃんの手、あったかい。ねえ、もう少し繋いでいてもいい?」と言うから断れるはずがない。
冷えた先輩の手が少しずつ私の温度を奪っていくのに、私の顔は相変わらず熱くて、ついには頭のてっぺんから湯気でも出てくるんじゃないかと心配になった。

手を繋いだまま会話もなしにただ私達は歩き続ける。
どきどき、きゅんきゅん、ずきずき。どの擬音にも形容しがたいこの胸の苦しさは一体なんなのだろう。沖田先輩といると、どうして苦しくて切ないのだろう。
そんなことを考えてると沖田先輩が不意に口を開いた。

「あのね、千鶴ちゃん。前に君は、僕といると胸が苦しいって言ってたでしょ。覚えてる?」
「はい」
「それ、僕も同じだよ。君といると、切なくて苦しいの」
「沖田先輩も、ですか?」
「うん。どうしてかわかる?」

沖田先輩の質問に私は首を横に振るう。私を見つめる先輩の瞳は、すごく、すごく、優しい。
沖田先輩は繋いだ手をさらに強く握りこんで「好きだよ、千鶴ちゃん」と言った。

空にはいつしか、眩い光を放つ星がちらほらと浮かんでいた。私は相変わらず少し切なくて、苦しい。だけど、この苦しさは嫌いじゃない。赤く染まった沖田先輩の顔を見てそれだけは確信した。だって私だって顔が赤い。
私はまだこの感情の名前を知らない。


 
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