馬鹿とコーラの一気飲みについての想起 




幸せそうに笑い合う二人を見ていたら、何故か、ふと、平助が学生時代にコーラの一気飲みを決行したことを思い出した。いや、本当に偶然。悪意は無い。本当に、ふと、思い出したのだ。

思い返せば、あれは高校二年生の夏のことだったか。
ある日の昼休み、何を血迷ったのか、突然、二リットルのコーラを買ってきた平助が一言。

「オレ、このコーラを一気飲みできたら千鶴に告白する!」

馬鹿だ、と思った。当時、僕の隣に座っていたはじめ君はフリーズしていた。たぶん、あまりの馬鹿さにはじめ君の思考が追い付かなかったのだと思う。まあ、そりゃそうだろう。僕だって平助が何を言っているのか理解できなかった。

無駄にうるさいということで定評のある平助の声は思いの外教室に響き渡って、各々昼休みの時間を過ごしていたクラスメイト達もなんだこいつ、という瞳で平助を見ていた。この時、クラス中が平助のことを馬鹿だと思っただろう。

「あのさ、前々から馬鹿だと思ってたけど、やっぱり馬鹿なの?」
「オレは、コーラ一気飲みを絶対に成功させる…!」
「おい、スルーすんな」

平助は気合い十分といった様子で、ペットボトルのキャップを外す。
コーラの一気飲みに対するその情熱を、千鶴ちゃんへのアプローチに向けたらいいのに、と思ったのはきっと僕だけじゃない。クラスの皆がそう思ったに違いない。
とりあえず、色々と突っ込みたいところはあった。まあ、馬鹿の思考回路は僕達には理解できなかった。

「おい、平助。何故コーラの一気飲みを?」
「はじめ君、止めないでくれ…!オレは決めたんだ…!」
「いや止めてはいないが」

フリーズ状態がとけたはじめ君は、新種の生物を見るかのような視線を平助へと送っていた。その気持ち、わかる。すごくわかる。僕もこの馬鹿のこと理解できないもの。

「うおおおおおお!行くぜ!!」

平助の雄叫びと共に僕もはじめ君も机をさっと下げる。平助の近くにいたクラスメイト達も同時に机を下げる。この後に訪れるであろう悲劇に備えてだ。

ごくりごくりと平助が喉を鳴らす度、どんどんとペットボトルの中身は減っていく。
僕はドン引いていた。はじめ君も引いていた。勿論、クラス中が平助にドン引いていた。

奇妙な静寂の中、コーラはみるみるうちに減っていく。あ、あと少しで終わる。
僕達がそう思った時、がらりと教室のドアが開かれる。

「あの、平助君ー」

悲劇は、起こった。
平助の口から勢いよく噴出される褐色の炭酸水。はじめ君の机の上にそれらは一気に降りかかる。クラスメイト達の恐怖の瞳。怒りに震えるはじめ君。
僕はただただ、千鶴ちゃんの間の悪さと平助の馬鹿さを心の中で嘆いた。主に後者を。

「えっ、え!?へ、平助君!?だ、大丈夫!!?」
「うわっ、ち、千鶴、違う、これは違うんだ、」
「おい平助…」
「お、おい斎藤!やめろ!殺人は罪だぞ!早まるな!」

これ以上無いくらい大きく目を見開く千鶴ちゃんに、テンパる馬鹿一匹、殺意に満ちた視線を送るはじめ君、そんなはじめ君を止めようとする優しい心を持ったクラスメイト達。とりあえず、色々とカオスだった。そこには、日常なんてものはひとつも無かった。

「へ、平助君、一体何なの?えっ、なに、コーラ?えっ、え!?」
「ち、違うんだ!いや、違くないけど!千鶴、好きだ!!」
「えっ!!?」

ああ、なんてこった。
テンパりながら口からだらだらとコーラを垂れ流す男に告白された千鶴ちゃんが本当に、本当に不憫でならなかった。
クラスメイト達はぽかんとしていた。相変わらず皆ドン引いていた。というか、まずコーラの一気飲み成功してないだろ。




「あの平助がねえ…」
「ん?何か言ったか総司」
「平助は救いようのない馬鹿だなあって」
「馬鹿ってなんだよ」
「ねえ、千鶴ちゃん。この馬鹿のどこが良かったの?」
「うーん…全部、です」
「千鶴…!お、オレもおまえの全部が好きだ」
「ふふ、ありがとう平助君」

コーラ一気飲み事件の後、何故か二人は恋人同士になった。千鶴ちゃんに聞いたら、あの真剣さにときめきました、だと。わからない。あのカオスの中のどの場面に真剣なところがあったのだろうか。それは僕にもはじめ君にも、当時のクラスメイト達にもわからないだろう。ひとつ言えることは、千鶴ちゃんは相当な変わり者だったということだ。

高校二年生の夏、コーラ一気飲みを決行した平助は来月結婚する。勿論、相手は千鶴ちゃん。
まあ、なんというか、せいぜい幸せになってください馬鹿平助。











※良い子は真似しないでね!

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -