この恋の終わらせ方を教えておくれ 





全ての物事には終わりがある。それは、必ず。どんなに願ったって、嘆いたって、拒んだって、必ず終わりはやってくるのだ。


「元気でな、千鶴」
「歳三さんこそ、お元気で」

身を凍えさせる冬の冷たい風が頬を掠める。千鶴の白いマフラーも揺れた。唇からは真っ白な吐息が零れている。

「……寒いな」
「そうですね。歳三さん、風邪を引かないようにしてくださいよ?温かいものをちゃんと食べて、あとお仕事も無理しないで、」
「あー、はいはい。わかりました。…ったく、おまえは心配性なんだよ」
「歳三さんが心配をかけるようなことばかりするからです」

そう言って彼女は柔らかく微笑んだ。寒さのせいか、その頬と鼻の先は微かに赤くなっている。
この寂れたバス停には俺と彼女以外誰もいない。空は少しだけ曇り、世界はどこまでも静かだった。

「…千鶴、ちゃんと幸せになれよ」
「…はい、歳三さんに言われなくても幸せになってみせますよ。歳三さんこそ、私よりも良い人を見つけて、幸せになってください」
「……ああ」

水色のペンキの剥げたベンチに座る俺と千鶴の間には、僅かな距離があった。昔だったら、きっとこんな距離なんて存在しなかった。寒い日に二人でバスを待つ時には互いに寄り添って、笑って。この距離が短くなることなんて、もう無いのだろう。俺と彼女の間にできた隙間を埋めることなんてもうできないのだろう。
会話が途切れて、沈黙が訪れる。かじかんだ指先が少し痛い。

「………最高で、最悪の恋でした」

不意に、千鶴が呟いた。
冷たい風が、徐々に体温を奪っていく。
遠くからは、バスが走る音が聞こえてきた。
もうすぐだ。あと少しで、終わる。終わって、しまう。

「苦しくて悲しくて、でも幸せでした。貴方を、愛していました」
「…………」
「…私は、歳三さんに出会えて良かったです」

彼女の言葉に何か返そうとしても、何も思いつかなくて、そうしている間に、バスは俺達の目の前で停車した。

「…それじゃあ、私行きますね。お元気で。さようなら、歳三さん」
「……じゃあな、千鶴」

少ない荷物の入った小さな鞄を持って、彼女だけバスに乗り込んだ。俺はベンチに座ったまま、それを見つめていた。
それからバスはゆっくりと進み始める。彼女を乗せて。少しずつ遠くなっていく。もう、幸せな日々は戻っては来ない。

全ての物事には終わりがある。だけど、こんな結末なんて知りたくもなかった。
濁った空から、ひらひらと真っ白な雪が舞い降りてきた。寒い、寒くてたまらない。だけど、もうこの凍えるような寒さを温めてくれる人はどこにもいない。
嗚咽と共に、ぼろりと自分の意思とは関係なく涙が零れた。なあ、苦しい。苦しいんだ。心臓が、いたい。幸せな記憶が今も俺を蝕む。愛してた。いや、今だって愛してる。だれか、この恋の終わらせ方を教えてくれ。

 
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