いつかいつかの昔話 





(昔話をひとつ、しようか)



さあ、そろそろ眠りましょう。……え?眠れない?あらあら、困ったわね。そうだ、ひとつ、昔話をしましょうか。…そう、昔話。貴方のお父様のお話をしましょう。
お父様はね、とてもとても優しくて強い人だったのよ。私とお父様が出会ったのは、もう随分と昔のこと。私がまだ今よりもずっと若くて、幼くて、少女だった頃。……お母様はまだ若いって?ふふふ、ありがとうね。…お父様と私の出会いはあまり良いものではなくてね、私は最初、あの人のことが恐くて怖くて仕方なかった。…ん?…ううん、違うわ。お父様は優しい人。怖くなんかないわ。…ただ、少し意地悪なのよ。ふふ。…最初はね、怖くて仕方なかったけれど、ずっとあの人の傍で過ごすようになって、お父様は意地悪だけど、でもそれ以上に真っ直ぐで、優しい人だということに気づいたの。…ええ、誰よりも優しくて真っ直ぐな人。私はあの人のそういうところに惹かれたのかもしれないね。お父様はね、いつも自分のことよりも人のことを考えていて。自分のことも顧みずに、人のことを優先させてしまうこともあって、それに、とても思慮深い人なんだけど自分のことには疎くて、だからあの人から目が離せなくなったのかな。気付いたら、お父様の傍にいて、ずっと支えたい、そう思ったの。…え?…うん、そうね。ふふ。…母様の初恋だった。今も昔もあの人を愛している。勿論、貴方も愛しているわ。
そうそう、お父様はね、剣術がずば抜けてお上手でね、とても強い人だった。貴方がまだ私のお腹にいる頃によく言っていたわ。生まれてくる子供が男の子だったら、自分が鍛えてやりたい、って。大切な人を守れるくらい強くしてやりたい、ってね。…ふふ、母様のこともちゃんと守ってくれたわ。…守られてばかりだった。…ん?…うん、大丈夫よ。悲しくないわ。懐かしかっただけ。今は貴方がいるから、決して寂しくなんかないから。だから、心配しないで。…ふふふ、貴方は優しい子ね。お父様によく似てる。
…貴方が私のお腹にいた頃、お父様は毎日毎日、私のお腹を撫でて、貴方に語りかけていたわ。どうか元気に生まれてきてね。楽しみにしてるからね。待ってるからね。僕達の宝。そう言って、お父様は貴方が生まれてくるのを楽しみにしていたのよ。…うん、貴方は宝物よ。私達の可愛い可愛い大切な子供。生まれてきてくれて本当にありがとう。お父様もきっとそう思っているわ。……どうか、貴方もお父様のように、真っ直ぐで優しく生きてね。貴方が幸せに生きることが、母様の願い。
…さあ、そろそろ眠らなきゃね。ふふ、眠くなってきた?……今夜は、星が綺麗な夜だからね。きっと、お父様もあのお空の向こうから貴方のことずっと見守っているわ。……さあさ、眠りなさい。私の愛しい子供。…おやすみなさい。どうか、良い夢を。

 
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