冬立つ 





「わあ、見てください沖田さん!雪が積もっていますよ!」
「そりゃあ、こんなに寒ければ雪くらい積もるよ。犬じゃないんだからそんなにはしゃがないでよ」

吐く息は白い。
冬の冷えた空気が、耳や鼻先を冷たくしていく。
沖田は、隣ではしゃぐ千鶴を見つめて、呆れたように息を吐き出した。

「やっぱり、千鶴ちゃんは子供だね」
「雪が積もるとわくわくしませんか?」
「しません」

庭に積もった真っ白な雪を見つめながら、沖田は冷えた指先を温めるように擦りあわせる。
それから、ちらり、と隣の千鶴へと視線を落とした。

「…早く春にならないかなあ」
「沖田さんは、冬が嫌いですか?」
「うん。寒いし寒いし寒い」
「寒いしか言ってないじゃないですか」
「千鶴ちゃんは冬が好きなの?」
「うーん、寒いのが好きってわけじゃないですけど、この身が引き締まる感じは好きです。あと、冬の澄んだ空気も」

千鶴はそう言って、すうっと冷たい空気を吸い込んだ。
そんな千鶴を見て、沖田は小さく笑う。

「ねえ、千鶴ちゃん。寒くない?温めてあげようか?」
「え?」

琥珀色の綺麗な瞳を瞬かせた千鶴の小さな手をとって、きゅうっと握る。
突然の沖田の行動に、千鶴は驚いたように沖田の顔と繋がれた手を交互に見つめて、それから頬を赤く染めた。

「あれ?頬っぺたが赤いよ。風邪でも引いたのかな?」
「……沖田さんはずるいです………」
「ふふふ、何?よく聞こえないなあ」

指を絡めると、冷えた指先が互いの体温でじんわりと温かくなっていく。

「…そろそろ、中に入ろうか。風邪引いたら困るしね」
「……そう、ですね」
「なあに、千鶴ちゃん。何かあるの?」
「いえ…その、中に入ったら沖田さんとこうして手を繋げないな、って」
「…………」
「…す、すみません。こんなこと言っても沖田さんを困らせるだけですよね」
「……………はあ、まったくずるいのはどっちなんだか…」

沖田の呟きに千鶴が顔を上げると、繋いでいない方の手でそっと顔を覆われた。
何事かとぱちぱちと瞬きを繰り返す千鶴に、沖田はぼそりと呟く。

「…今、顔が赤いから見ちゃだめ」
「え、見たいです」
「だーめ、千鶴ちゃんの意地悪」
「…だって、私だって顔赤いからおあいこじゃないですか」

顔を覆う大きな手をどけると、千鶴は沖田の顔を見つめた。
困ったように顔を背ける沖田は、耳まで真っ赤だった。

「…えへへ」
「……なに」
「沖田さん、可愛いです」
「……今日の千鶴ちゃんは意地悪だ」
「いつも沖田さんが私に意地悪ばかりするからです」
「…………ふうん。じゃあ僕も反撃」
「え?」

千鶴が目を瞬くと同時に、唇を柔らかな熱が掠める。
何が起きたのかわからずに目の前の沖田の顔を見つめる千鶴は、再び唇を塞がれて、そこでやっと接吻をされたのだと理解した。

「お、沖田さん…!!」
「はは、千鶴ちゃん顔真っ赤。可愛い」
「不意打ちはずるいです…!」

寒空からはひらひらと雪花が舞い降りてきていた。
沖田は自らの手の中にある小さな手を強く握りしめる。
掌の温もりが、どうしようもなくいとおしいと感じた。
己の隣にいる少女が、何よりも誰よりも愛しくて堪らなかった。

「…ねえ、千鶴ちゃん。僕からひとつお願い」
「なんですか?」
「これからも、ずっと僕の傍にいてね」
「…………」
「あれ?返事は?」
「……やっぱり、沖田さんはずるい。私がそのお願いを断るわけないじゃないですか。私を、沖田さんの傍においてください。ずっと」

小さな手がきゅうっと沖田の手を握り返してきた。
沖田は小さく微笑う。つられて千鶴も微笑う。

吐く息は、白い。
空気はどこまでも澄んでいて、冷たかった。
京の都の冬は、まだ始まったばかりだ。

 
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