渇望 





最低な男だ、僕は。


「沖田、さん、」

小さな身体をぎゅうっと、きつくきつく抱き締める。
女性特有の柔らかさと、甘い甘い彼女の香りに包み込まれた。

「…千鶴ちゃん、」
「…大丈夫ですよ、沖田さん」

心優しい彼女は、そんな僕を突き飛ばすこともなく、嫌がることもなく、無抵抗のまま僕に抱き締められているだけでもなく、あろうことかその細い両腕で僕の身体を包む。

「沖田さん、大丈夫です。私が、傍にいます。だから、大丈夫」

彼女はそう言って、ぽんぽんと幼子をあやすかのように僕の背中を軽く叩いた。

「千鶴ちゃん、僕は、」

自分には無いその柔らかさと、白粉とも香とも違う、例えようのない甘い彼女の匂いに、胸の内がざわざわと騒いだ。
こくり、と喉が鳴る。
無意識のうちに、小さな背中にまわした腕が、彼女の細い腰、そして柔らかい無防備な脇腹へ移動する。
そんなことを気にすることもなく、彼女は優しく僕の背中を撫でる。

ああ、触れたい。
もっと、もっと、彼女に触りたい。

「大丈夫ですからね、沖田さん」

僕の邪な感情に彼女が気付くわけもなく、自らに忍び寄る手を払うこともせずに千鶴ちゃんは僕を抱き締め続けた。

なんて僕は最低な男なんだと、心の中で嘲笑う。
病で弱気になっているふりをして、彼女の優しさに甘えてそれに付け込んでいるなんて。
もうすぐ死ぬくせに、彼女に触れたいと思っているなんて。

「千鶴ちゃん、ごめんね」

最低な僕なんかさっさと死ねばいいのに。
だけど、あと少しだけ、彼女に触れていたいと思ってしまう自分がたまらなく、嫌いだ。


(ねえ、君が欲しい、)

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -