神様はいない。だけど君がいた。 






「よく好きすぎて殺しちゃうってやつ、あるじゃない?」
「ヤンデレ、ってやつですね」
「うん、そう。それ。それがさ、僕には理解し難いんだよ」
「どうして?一つの愛の形でしょう?それに、私は貴方はヤンデレの属性かと思っていましたよ」
「僕こそ君がヤンデレに理解を示しているだなんて思っていなかったよ。君ってさ、プラトニックな恋愛しか許さなそうじゃない」
「ええ、たしかに昔はそうでしたよ。昔は」
「今は違うの?」
「世の中の色々なものを見てきて、私が知っていた世界との相違に絶望して、そうしていくうちに世の中には様々な愛し方、愛され方があるのだと嫌でも思い知らされましたから」
「ふぅん。まあ、つまり僕が言いたいことはさ、どうして好きになって愛している人を殺しちゃうのかな、ってこと。僕には全然理解できないや」

よくゲームやアニメの世界ではあるじゃない。
好きだから殺す。愛しているから殺す。殺して自分だけのものにしたいから殺す。
馬鹿だなあ、と思う。
死んだら何も残らない。自分のものになったというのは殺した側の自己満足でしかなくて、死人の身体はともかく魂なんて其処には存在しないのだから誰のものでもない。強いて言えば神様のもの?まあ、神様なんていないけど。

「だってさ、いつかはみんな死ぬんだから、だったら生きている間くらい好きな人といたくないのかなあ。人の一生なんてたいして長くもないんだからさ」
「そうですね。それはかつての貴方と重ねているんですか?」
「うん、そう。僕は長生きできなかったもの」

ヤンデレだかなんだか知らないけど、好きなのに殺しちゃうだなんてなんだか勿体無い。
かつての自分が愛した人の傍で生きることが叶わなかったからこそ、余計にそう思うのかもしれない。
僕にはヤンデレ属性の人間の心理はこれっぽっちも理解できないけど、いや少しは分かるかもしれないけれど、だけど、やっぱり殺すんじゃなくて一緒に生きたい。
死の間際、どれだけ神様に祈ったのだろうか。
どうか、あと少しだけ僕に時間を下さい、と。
まあ、そんな祈りなんて届かなかったけれど。

「でもまあ。今はプラトニックな恋愛だろうが、歪んだ恋愛だろうが、何でもできるじゃないですか」

またこうして出会えたんですから、と彼女は穏やかに笑った。
僕も彼女に微笑み返す。

「そうだね、千鶴」
「ええ、総司さん」

神様はいないし、僕は無神論者だ。
だけど、もしも、もしも神様がこの世界の空の果てに、それよりもっと遠くに、もしかしたら案外近くにいたとしたら、君も中々粋なことするね、とそう伝えたい。
それから、僕と彼女を再び出会わせてくれてありがとう、と。
そして今度は意地悪しないでね、と釘を刺しておかなきゃ。

「ねえ、千鶴。僕は君が好きだよ」



(主よ、貴方は憐れみ深く情け深い。だけど僕には、彼女がいればそれだけでいい)

 
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