どこまでも澄んだ青い空は、どこまでも僕を陰鬱な気分にさせる。
「総司ー、またサボりかよー」
屋上のフェンスに寄っ掛かりながら紙パックのイチゴオレを飲んでいると、呆れたような顔をした平助が僕を見つめていた。
「そういう平助こそ。サボりは良くないよ」
「うるせー。おまえにだけは言われたくねえよ」
言いながら、僕の隣へ来て同じようにフェンスに寄っ掛かる平助。
「…おまえさー、マジでこのまま授業サボり続けると留年するぞ?」
「どこかの古典教師と同じこと言わないでくれる?それに僕、成績は良いから」
「にしても限度ってもんがあるだろ」
「……別に、いいよ。留年しようが何しようが、そういうのすごくどうでもいい」
残り少なくなったイチゴオレをストローで啜ると、平助は何か言いたげな視線を向ける。
それに気付かないふりをして、僕は雲一つない青空を見上げた。
「…総司」
「……なあに?お説教は受け付けないからね」
「別に、おまえに説教なんてしても無駄だってことはよーくわかってるからしねえよ」
「ははは、僕のことわかってるね」
大きく息を吐き出して、平助も僕と同じように空を見上げる。
「…青いなー。吸い込まれそうだ」
「……そうだね。僕はそんなに好きじゃないけど」
青の眩しさに僕は目を細める。
青空は嫌いだ。
どこまでも澄んでいて、綺麗で、まるで、いなくなったあの子みたいで。
「…千鶴ちゃんは、どこにいるのかな」
ぽつりと零れた僕の呟きに、平助は応えない。
あの子はいない。どこにもいない。
こんなに晴れた空だって、もしかしたらあの子が一緒だったのなら、綺麗だと素直に思えたかもしれないのに。
だけど、ここにはいない。僕は彼女に、会えない。
「……千鶴ちゃんは、僕達に出会わない方が幸せなのかもしれないけどさ、」
「…うん」
「だけど、僕はあの子に会いたいよ、」
もう一度あの子に会えたのなら、謝りたかった。守れなくてごめん、たくさん酷いことをしてごめん、泣かせてごめん、と。
それから、ありがとうと伝えたかった。
彼女に、ありがとうと伝えたかったのに。
相変わらず、空は青くて、ちっぽけな僕等を見下ろしていた。
こんなによく晴れた日には洗濯物がたくさん乾くと笑った彼女の顔すら、今の僕にはもう思い出せない。
青い空を見上げる度に、僕はあの子がここにはいないということを思い知らされる。
もう顔すら思い出せない彼女の存在を。
人間は忘れることが得意なものだから、僕はこれから先、どんどん彼女を忘れていってしまうのだろう。
「…総司」
「なに?」
「…おまえ、千鶴がいなくて投げやりになるのはわかるけどさ、だからって、生きることだけは絶対に投げ出すなよ」
何をいきなり言い出すのだと笑ってやろうと思ったけど、あまりにも平助が真剣な瞳で言うものだから、そうだねと返すことしかできなかった。
押し殺していた本心を見抜かれたような、そんな気がしてどこか居心地の悪い気分だった。けれど、平助の言葉はあながち間違ってはいなかった。
毎日毎日、僕が屋上へ来る理由を、彼は知っていたのかもしれない。
「…おせっかい平助」
「はあ?なんだよ、いきなり」
「別にー」
空になった紙パックを握り潰して、僕は再び視線を空へ向けて、それからすぐに下へ戻した。
ああ、やっぱり、どこまでも澄んだ青い空は僕をどこまでも陰鬱な気分にさせる。
(翼なんて手に入れられなかったから、飛べるはずないのにね)
転生してみたら千鶴ちゃんがいなくて投げやりに生きる沖田に喝をいれる平助の話。