Live,Love,Lough,and be Happy. 





「薫、ありがとうね」
「…なんだよ、いきなり」

唐突にそう言葉を紡いだ千鶴に、俺は訝しげに眉をひそめる。

「私、薫の妹に生まれてきて本当に良かったよ」
「…どうせおまえにとって俺は過保護で口煩い兄貴だったろう」
「まあ、過保護だとは思うけどね。でも、口煩いのも全部私のことを思っていたからでしょう?」
「……おまえの頭の中は年中花が咲いてるんだな」

俺の悪態に彼女はにっこりと笑って「そうだよ」と返す。
千鶴と同じ顔を持っているというのに、俺にはきっとこんなにも綺麗で邪気の無い笑みなんか一生浮かべられないだろう。(まあ、俺が千鶴のような笑みを浮かべたらそれはそれで鳥肌ものだけど)

「…薫とはずっと一緒にいたね」
「そりゃあ、母さんの腹の中にいた頃から一緒だったからな」
「うん、そうだね。それに、いっぱい喧嘩もしたよね」
「今思うとくだらない理由のものが多かったけどな」
「ふふ、そうだったね」

楽しそうにそう笑って、それから千鶴は黙り込んだ。
そして少しの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。

「…あのね、薫。私、今すごくすごく幸せだよ。だから、薫も、」
「………」
「薫も、幸せになって、」

俺を真っ直ぐに見つめる俺と同じ顔の千鶴は、俺には少し眩しすぎるように思う。

千鶴は、勘違いしている。
千鶴のために、俺が俺自身を犠牲にしてきたのだと、勘違いしている。

幼い頃、俺達の両親は事故で亡くなった。
幼い俺達には互いしかいなくて、だから千鶴を守るのは兄である俺の役目だと俺は信じた。
だから、俺は自分を犠牲にしてでも千鶴に全てを捧げた。

それが兄としての役目であり、そして彼女への償いになるのだと。


「…馬鹿だな、おまえは」
「…薫」
「おまえに言われなくたって、俺は勝手に幸せになるよ。だから、千鶴、おまえも勝手に幸せになれ」

最後まで棘の無い言葉は言えなかったけど、それでも千鶴は俺の言葉に静かに微笑んだ。


「千鶴ー、片付け終わったー?」
「あ、総司さん」

扉からひょっこりと顔を覗かせた男は、俺を見ると意地の悪そうな笑みを貼り付けて部屋に入ってきた。

「なになに?お義兄さんにしては珍しく穏やかな顔してるじゃない」
「お義兄さんって言うな、気色悪い」
「えー?だって、僕と千鶴のこと認めてくれたんじゃないの?」
「おまえの人間性は認めてない」
「酷いなあ、お義兄さんは」
「だから、お義兄さんって言うな!」
「総司さんと薫は、本当に仲良しですね」

俺達のやり取りを見て、千鶴は嬉しそうに笑う。
今のやり取りのどこを見て仲良しなんだと小一時間問い詰めてやりたいが、ぐっと堪える。

「総司さん、さっき薫と昔の話をしてたんですよ」
「へえ、そうなの?じゃあ、兄妹水入らずの時間を邪魔しちゃったかな?」
「ああ、邪魔だ」
「もう、薫。思ってもないこと言わないの」
「俺の嘘偽りの無い本音だけど」
「はは、お義兄さんは素直じゃないなあ」
「うるさい、黙れ」

目の前の男の隣にいる千鶴は、とても幸せそうだ。

「…おい、沖田」
「何?お義兄さん」
「千鶴を泣かせたら絶対に許さないからな」

俺の言葉に、沖田は目を瞬き、それから俺の目を見据えて言った。

「千鶴は絶対に僕が幸せにするから」



遠い遠い、昔の話。
俺が、千鶴を愛せなかった頃の話。

俺は、俺以外を選んだ千鶴を憎み、傷付け、苦しませた。
そして、千鶴とは分かり合うことも許すこともできないまま、俺は千鶴の愛する沖田の手によって死んだ。

時は巡り、俺はこの平和な時代に生まれ落ちて、再び千鶴と双子になった。

幼い頃から、俺には昔の記憶があった。
幸いなことに、千鶴には昔の記憶など残っていないようだった。
だから、俺は今度こそ千鶴を愛そうと、千鶴を守ろうと、そう心に決めたのだ。

俺の全てを犠牲にして、全てを千鶴に捧げ生きていくことが、俺が千鶴にできる唯一の償いだと思った。

そうして俺達は成長して、千鶴は再び沖田と出逢った。

二人に前世の記憶などあるはず無かった。
二人のことを知っていたのは俺だけのはずなのに、なのに、千鶴と沖田はまるで魂が惹かれ合うかのように、この時代においても互いを愛し合った。

いつの時代でも千鶴の心を奪う沖田が憎かった。
だけど、千鶴を幸せにできるのも沖田しかいないということも俺はよく知っている。

だから、これでいいのだと。
今度こそ、心から愛しい妹の幸せを願えたのだ。



「心配しないでよ、お義兄さん」
「……ふん。千鶴、こいつに何かされたらいつでもここに戻ってきていいからな」
「ふふ、大丈夫だよ、薫。私、総司さんといられて幸せだから」


千鶴は、明日この家を出て行く。
そして『雪村』千鶴ではなく、『沖田』千鶴として生きていく。

妹は明日、結婚する。



(生きて、愛して、笑って、幸せになれ)







きっと沖千は記憶が無くてもまた再び恋をするはず。
薫は沖千夫婦の子供をなんだかんだ言いつつ溺愛すればいい(^q^)

 
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